植物研究助成

植物研究助成 27-11

野外での葉温の短期的な時間変動を再現可能な環境制御システムの開発

代表研究者 東京大学大学院 農学生命科学研究科
准教授 松田 怜

背景

 温度などの種々の環境要素に対する植物の応答を、再現性を担保しつつ調べようとする場合、各環境要素を制御できるグロースチャンバを用いることが多い。しかし、チャンバ内の環境と、植物が実際に生息する野外の環境との間には、無視できない差が存在する。その主要なものの1つが、環境要素の短期的な(秒・分・時間スケールでの)時間変動である。例えば葉温は、純放射量、気温、水蒸気飽差、気流速度などの影響を受け、時々刻々と変化する。野外において、そのような変動環境における植物の応答を観察することは可能ではあるが、同じ変動を再現することや、着目する環境要素以外の環境要素を任意に制御することは著しく困難であり、野外の変動環境における植物の生態を要素還元的に解析する上での障壁となっている。

目的

 本研究は、野外の変動環境における植物の生態、特に光合成・蒸散の実態を、再現性を担保した室内実験によって解明することを最終目標とする。本課題では、そのために必要な、葉温の短期的な時間変動を再現可能な環境制御システムを開発することを目的とする。

方法

 開発する環境制御システムの構成要素は、着生葉を封入する小型チャンバ、チャンバへの流入空気の気温を調整する気温調整ユニット、葉に光合成有効放射を含む白色光を照射するためのLEDユニット、同じく赤外放射を照射するための赤外放射ユニット、およびマイコンボードなどからなる制御ユニットである。ハードウェアのプロトタイプを構築するとともに、チャンバ内の環境要素を制御するためのプログラムを開発する。蒸散のない模擬葉や実際の着生葉を用いて、性能評価および必要な改良を行う。

期待される成果

 野外での葉温の時間変動を高い精度で実験的にシミュレートし、植物生態に及ぼす影響を精緻に解析することが可能となる。将来的には、純光合成速度・蒸散速度計測のための計測ユニットや、他の環境要素の時間変動を再現するシステムと組み合わせることで、野外の変動環境における個葉の光合成・蒸散の実態が、再現性の担保された室内実験によって解明される。