植物研究助成

植物研究助成 27-14

植物の生育や分布に影響を及ぼす植物の栄養欠乏を非破壊的に推定する技術の開発

代表研究者 東京大学大学院 農学生命科学研究科
教授 藤原 徹

背景

 植物の生育には17種類の無機元素が必要であるが土壌に含まれる無機元素の濃度は、ほとんどの場合に植物の生育に適切ではない。植物は自身が発芽した環境に存在する無機栄養しか与えられないため植物は無機栄養の乏しい環境に適応するように進化してきた。この様な進化により、栄養条件に対する適応性の異なる様々な植物種が生まれ、それに伴って土壌環境に応じた植生分布が生じてきたと考えられる。これまでも土壌(栄養)条件に応答した生育や元素集積特性(栄養特性という)の変化が植物種により違っていることが報告されてきているが、多数種から構成される植物群の栄養状態を大域的に把握することは技術的に困難であり、非破壊かつ野外で適用できる栄養特性を測定する技術の開発が重要である。

目的

 本研究の目的は、植物の葉の光学的な特性を用いた植物の栄養状態や栄養特性を推定する技術の開発である。

方法

 栄養を様々に変化させて生育させた植物について、ハイパースペクトルカメラによる画像取得と生育量、元素吸収量の測定を行う。ハイパースペクトルカメラによる画像取得は生育している植物の様々な葉について行い、元素濃度測定は画像に対応する葉について行う。得られるデータから成長量、元素吸収量を推定する回帰式を得る。得られた回帰式の普遍性の検討を行い、推定式の適用を熱海市の植物研究園の研究フィールドでも試みる。

期待される成果

 本研究によって非破壊的に植物の栄養特性を推定することができれば、様々な環境での植生の状態を非破壊的に推定することができるようになると期待される。このような技術は環境変動に伴った植物への影響推定などに用いることができ、影響を早期に感知することで、生態系や植生の保全対策を取りやすくなるものと期待される。
 このような技術は農業においても重要で、容易な生育予測が可能になり、適切な施肥管理につながる。このような技術は過剰施肥に伴う肥料成分の環境への流出を防止することにもつながり、人類の活動に伴って各国で発生している富栄養化とそれに伴った生態系への影響を軽減することにつながる。