植物研究助成

植物研究助成 27-18

濡れに対する植物個体の動的な生理生態応答の総合診断システム

代表研究者 九州大学大学院 農学研究院
准教授 安武 大輔

背景

 植物の濡れは、降雨のみならず、夜間における水蒸気凝結や葉の水孔からの排水によって頻繁に発生し得る現象であるにもかかわらず、濡れに対する植物の生産性に関連する生理生態機能の応答特性は十分には理解されていなかった。一方、申請者は乾燥地畑において、夜間の空気中の水蒸気凝結に起因する葉の濡れを観察し、さらに濡れが続く午前中は葉が萎れず、水ストレスによる気孔閉鎖も起きないことを観察した。さらに、濡れた植物の蒸散・光合成を計測できる独自の計測システム(茎内流量センサ付き植物個体チャンバ)を利用することで、濡れが蒸散による水分損失を抑制し、気孔開度と光合成速度が高い状態で維持される“濡れの戦略的意義の可能性”を初めて明らかにした。
 しかしながら、申請者の前述の観察データは葉のガス交換特性のみであり、植物体の濡れと葉のガス交換特性の間に介在・関与する植物の水分生理機能の動態については、ガス交換と同時計測する手法が未だ十分に確立されていない。

目的

 そこで本研究では、濡れに対する植物の動的な生理生態応答を解明するために、葉のガス交換特性に加えて植物体の水分生理機能も同時かつ連続的に計測できる手法(総合診断システム)を確立することを目的とする。

方法

 申請者がこれまでに構築していた茎内流量センサ付き植物個体チャンバに、植物の水分状態を非破壊で連続計測できるセンサ(葉取付型および土壌用サイクロメータ)を新たに導入する。葉と根圏の水ポテンシャル差と蒸散速度から植物体の通水コンダクタンスの動態も同時に計測可能とする。

期待される成果

 葉のガス交換特性に加えて、植物体の濡れとガス交換特性の間に介在する、植物体の水分状態(葉の水ポテンシャル)と通水特性も同時かつ連続的に計測可能になる。すなわち、自然界で頻繁に起こり得る植物の濡れに関して、その動的な生理生態応答特性を総合的に診断できる世界初のシステムが確立される。それゆえ植物科学的に高い普遍性と先進性が期待される。