植物研究助成

植物研究助成 27-19

水耕栽培における栄養成分の測定と濃度制御システムの構築

代表研究者 京都大学大学院 農学研究科
准教授 白井 理

背景

 現在、異常気象による農産物供給の不安定性や過剰な施肥・残留農薬・公害による農産物の安全性に対する危惧が社会問題となっている。天候・気候の影響を受けず、虫害や病原菌の影響が少ない水耕栽培は、安全性・衛生面から注目されている。水耕栽培では必須栄養成分を培養液として加えるが、適切な成分組成・濃度は野菜の種類・品種によって異なり、栽培時期、生育段階、温度等によっても変化する。しかし、培養液中の栄養成分のモニタリングは容易ではない。従来は、クロマトグラフィー、分光学的等の手法によって各成分濃度を定量してきたが、ろ過などの前処理作業を必要とした。そのため、電気伝導率を測定し、培養液を追加して対処されてきた。しかし、電気伝導率測定では各成分濃度は正確に評価できない。また、取扱いおよび測定が容易な電気化学イオンセンサも提案されているが、長期間安定に測定できる電極は実用化されていない。

目的

 長期間 (数週間以上) 安定に使用できる各種無機栄養成分の高感度イオンセンサを開発し、比較的大量に必要とする栄養素 (硝酸イオン、リン酸イオン、カリウムイオンなど) の濃度をモニタリングする装置を構築する。これにより、野菜の種類・品種による適正濃度の違いやそれらの栽培時期、生育段階などによる変動を評価する。さらに、各栄養成分濃度の自動調節システムを構築する。

方法

 水耕栽培では、特に NO3-、H2PO4-、HPO42- および K+ 濃度を適切に制御すれば生産量の向上が見込まれる。そのため、NO3-、H2PO4-、HPO42- を 10-5〜0.1 M (mol L-1) の濃度範囲で精度よく定量でき、応答時間も数〜数十秒と速く、数週間以上安定な電極を作製する。これらの電極を用いて、培養液中の必須栄養成分のモニタリングを行い、生育条件の最適化を模索する。さらに、各栄養成分濃度を自動的に適正値に調節するイオンスタットを製作する予定である。

期待される成果

 NO3-、H2PO4- および HPO42- 測定用電極を完成させることで、前処理が不要で取扱い・維持管理・運搬が容易な装置を完成させる。植物の生長速度と各種成分濃度の測定結果の関係から種類・品種・生育時期による最適な各種成分濃度を割り出し、それらを制御することで生産量・品質の向上および栽培期間の短縮化が期待される。自動化により作業の簡略化によるコスト削減も期待できる。