植物研究助成

植物研究助成 27-20

津波被災海岸林に植栽された広葉樹の活力度調査

代表研究者 東北工業大学 工学部 環境エネルギー学科
准教授 佐野 哲也

背景

 宮城県の津波被災海岸で実施されている海岸林再生事業では、マツを主体とした林帯の背後に、広葉樹を主体とした林帯を配置する計画で植林・育林が進められている。人工的に造成された盛土基盤上での大規模な海岸林造成はこれまでに類がなく、とくに海岸林の植栽樹種として実績の乏しい広葉樹については生育状況のモニタリングが必要とされている。申請者はこれまでに、岩沼市の「千年希望の丘」など津波被災海岸の広葉樹植栽地において植栽木の初期成長や植栽基盤土壌のモニタリングを継続し、活着率や初期成長が良好であること明らかにしてきた。しかし、植栽基盤には固く水はけが悪い層が存在しており、根系発達の阻害などにより、衰退する個体が増えることも懸念される。

目的

 本研究では、津波被災海岸の広葉樹植栽地において、植栽木の成長に伴う樹冠の衰退状況を把握し、衰退が見られやすい樹種を明らかにする。また、樹種の生理生態的特性、衰退個体が受けているストレスを広く考慮して、衰退の要因を明らかにすることを目的とする。

方法

 衰退度(活力度)調査:植栽木の樹冠の着葉量、枯枝の発生量、葉色など、外観的特徴に基づいて衰退度(活力度)をランク付けし、広葉樹植栽林分内の個体および樹種毎に集計する。これにより、衰退現象が現れやすい樹種を特定する。着葉量や葉色については、季節的な観測を実施する。
 樹木の水分生理状態の測定:津波被災海岸植栽地の植栽基盤には固くて水はけの悪い層が見られることから、根系の発達障害や水ストレスによる衰退現象が現れることが予想される。そこで、葉の水分生理状態の測定を実施する。葉の水分ストレスの指標として、木部圧ポテンシャルの夜明け前の最大値と日中の最低値を水ポテンシャル測定装置で測定する。また、P−V曲線法にて、各種葉の水分生理特性を季節的に測定する。

期待される成果

 津波被災海岸の植栽地では、津波威力減衰効果の強化のため、盛土構造をした人工造成基盤上に植樹を行っているが、造成方法により植栽木の成長状況が異なることがマツを中心に指摘されてきた。本研究により植栽基盤に適する植栽樹種の選定指針や、樹木衰退を回避するための方法が提案できるようになる。