植物研究助成

植物研究助成 27-22

過酷な海岸環境で樹木を助ける根圏共生微生物の活性評価

代表研究者 三重大学大学院 生物資源学研究科
教授 松田 陽介

背景

 東日本大震災で被害を受けた海岸地域では、山砂で盛土したところにクロマツを植栽して防災林の再生が進んでいる。今後、防災林を再生、回復させるためには、早期に苗木の健全性を評価する手法の構築が必要である。樹木の生育は、葉による光合成と根からの養分獲得が必須である。クロマツの細い根の先端部分の多くには菌根菌という共生菌が定着する。そのため樹木の養分吸収は、実質的に細根部分を覆いつくす菌根菌の働き(菌糸からの酵素の分泌による鉱物や有機物の可溶化)に依存すると予想される。盛土や海岸砂質土からの養分吸収を菌根菌の機能にもとづいて理解し、苗木の成長特性との関連性を客観的に評価することで、健全な海岸林の造成と維持にかかる技術開発に貢献したい。

目的

 クロマツに共生する菌根菌の機能を解明するため、海岸林で優占する Cenococcum geophilumの酵素活性を調べる。

方法

 海岸林と内地に由来するC. geophilum菌株を用いて、クロマツが直接利用できない有機態の窒素・リン・炭素の獲得に関わる酵素の計測をマイクロプレートリーダーで解析する。酵素活性の高かった菌株はクロマツの接種のために拡大培養を行う。ポットに滅菌済みの海岸砂質土または山砂土にココピートを混合した基質にクロマツを播種する。温室で25℃、自然光下で育成してから、拡大培養したC.geophilum菌株を接種する。対照は C. geophilumを接種しない。苗を6ヶ月間育成後、光合成活性、地上部・地下部の乾重量、菌根形成率を測定し、マイクロプレートリーダーで接種区のC. geophilum菌根、非接種区のクロマツ細根の酵素活性を計測する。

期待される成果

 本研究によって、海岸と山地の間や海岸地域間でC. geophilum菌株内の酵素活性が異なり、クロマツに本菌が共生した際には、海岸砂質土では海岸由来の、山砂土では山地由来の菌株の酵素活性が高くなると予想している。そのため海岸環境に適した菌根菌の酵素活性を計測し、苗木の健全性を客観的に評価することが可能となる。本手法の開発は、津波被害による海岸林の再生、今後懸念される南海トラフ巨大地震に備えた減災基盤を加速させるための健全な海岸林の整備と造成に役立つと期待する。