植物研究助成

植物研究助成 28-01

伊豆・箱根地域でのカンアオイ属およびテンナンショウ属の顕著な多様性創出・維持機構の解明

代表研究者 国立科学博物館 植物研究部
研究主幹 奥山 雄大

背景

 日本列島は約2700種の固有種を含む顕著な植物多様性を擁する地域である。中でもウマノスズクサ科カンアオイ属や、サトイモ科テンナンショウ属は特に日本列島を多様性の中心とする数少ない系統群である。この2属は、それぞれ日本列島に約50種自生しており、またその殆どが日本固有である。とりわけ伊豆・箱根地域はこれらの植物の多様性が顕著な地域であり、カンアオイ属では7種、テンナンショウ属では11種が少なくとも自生する。このような局所的スケールで多様な種が分化し、また共存している事実は驚くべきものであり、植物多様性の創出、維持メカニズムを理解する上でこれらの植物群は格好のモデルである。型(常緑・落葉、アーバスキュラー・外生菌根性)によって変化すると考えられる。しかしこれまで、根系レベルで菌種や樹種が菌根菌呼吸に及ぼす影響を調べた例はない。

目的

 そこでテンナンショウ属、カンアオイ属のそれぞれについて、1)まず分子系統学的手法を用いて種分化の歴史を解明し、日本列島、そして伊豆・箱根地域の多様性がどのような過程を経て形成されてきたのか(多起源のものが集結した結果か、それとも単一起源のものが局所的に多様化した結果か)を解明する。2)これと並行して、伊豆・箱根地域に分布する種を中心として種ごとの送粉者相を明らかにし、「送粉者の違いが生殖隔離として働き、地域の種多様性の維持ないしは創出に貢献している」という仮説の検証を行う。

方法

 これらの植物の系統関係について、超並列シーケンサーを用いたゲノムワイドな塩基配列解析法であるddRAD-seq法を用い系統解析を行う。また送粉者の確認については、インターバル撮影機能付き防水デジタルカメラを複数台使用して自動観察を行い、同時に現地で直接送粉者の採集を行う。送粉者はハエ目昆虫が多いことがこれまでに明らかになりつつあるが、この多くは同定困難であるため、DNAバーコーディング法を利用して1)何種いるのか? 2)植物の種ごとに送粉者相が異なるのか?に焦点を絞りこの点について解明する。

期待される成果

  日本列島全体、あるいは伊豆・箱根地域のそれぞれについて、その豊かな植物多様性が形成され、また維持されているメカニズムへの理解が深まる。本研究で取り上げるのは特定の植物群に過ぎないが、これらは日本列島の植生の中核をなす湿潤な広葉樹林林床で多様化を遂げた系統群であり、ここで明らかにしたことは広く地域の植物多様性形成の仕組みの理解につながる。