植物研究助成

植物研究助成 28-02

日本海要素植物ワサビの代謝フェノロジー分析

代表研究者 岐阜大学 応用生物科学部
准教授 山根 京子

背景

 ワサビは日本固有種である。重要な栽培植物であるにもかかわらず、生態学的特性は明らかにされておらず、植物学的な基盤情報もほとんど蓄積されてこなかった。野生集団の自生地が人里から離れた僻地であることが多く、多雪地帯では年間を通じた観察が難しいなど、種々の要因が考えられる。

目的

 一方、ワサビ生産において、根茎の辛味が季節によって変化することはよく知られた現象であるにもかかわらず、季節の移り変わりにともなう形態や成分など変化(=フェノロジー)についても、全く研究されてこなかった。そこで今回、安定的に維持管理されている新技術開発財団の植物研究園におけるワサビ集団を利用し、フェノロジー測定を行うことを目的とした。

方法

 ワサビの季節ごとの形態の変化と生活史(開花、結実率等)を観察する。そのうえで、生活史ごとの二次代謝産物の成分変化を調査する。具体的には、ワサビの辛味成分であるアリルイソチオシアネートの前駆体物質であるグルコシノレートを、UPLC[Ultra Performance Liquid Chromatography:高速液体クロマトグラフィー]を用いて分析する。また、年間を通じて網羅的遺伝子発現パターンがどのように変化するのかを確認するために、同一個体からRNAを抽出し、RNA-seq分析を行う。得られた結果を総合的に解析し、多年生のワサビにおいて、季節と生活史の移り変わりの際に、代謝成分や関連遺伝子がどのように変化するのかを明らかにする。

期待される成果

 本研究で基本的なフェノロジー情報が得られれば、ワサビに関する基盤情報を得ることができるだけでなく、生産現場においても、品種改良や持続的な利用のための保全等への貢献も期待できる。また、伊豆半島は日本のワサビにおいて最も重要な産地でもあるため、得られた情報を直接いかすことができる点も利点といえる。さらにワサビは、日本海の積雪量の多い地域に適応して進化した日本海要素植物であることがわかっている。近年の地球温暖化の影響を受けやすい植物群であることが知られ、実際に自生地の減少が顕在化しつつある。フェノロジー分析は、こうした気候変動にともない、危機的な状況に直面している集団に対する保全のための適応策を検討するうえでも重要な情報を提供できると考えられる。