植物研究助成

植物研究助成 28-03

茶育成品種との比較を通じた植物研究園周辺地域の茶在来種の特徴づけ

代表研究者 静岡大学 学術院農学領域
准教授 一家 崇志

背景

 日本の茶栽培は、エリート品種「やぶきた」とその血を受継ぐ品種群が栽培面積の大部分を占めている。一方、日本古来の在来種には形態、成分品質や病害抵抗性等の有用形質ついて多様性を持つ個体が存在するため、茶の消費拡大のためにも特徴的な個性をもつ品種素材の開発が望まれている。この遺伝資源を活用する試み、即ちバイオリソース収集(品種やDNA等の収集・保存)については、品種間のゲノム情報に加えて、カテキン等の既知の生理活性物質やその他の有用化合物の含量情報が、バイオリソースに産業的な情報付加価値を与える。

目的

 熱海市周辺地域には、これまでにも多くの茶の在来種が存在することが知られている。また、伊豆半島は地球科学的に見てもその土壌環境が大きく異なり、同じ遺伝背景を持つような在来種においても特性が異なることが示唆される。本研究では、熱海植物研究園内とその周辺に分布する茶在来種を対象に、遺伝的または化学成分的特性を調査し、「既知の在来種」や「やぶきた」との比較を通じたその個性の特徴付けを行なうことで新規素材探索を行なう。

方法

 昨年度採取した茶樹を中心に、2月中下旬から4月初旬にかけて適正な肥培管理を行ない、4月中下旬〜5月中旬の一番茶摘採時期に新芽を収穫する。昨年度と同様に新芽中のアミノ酸やカテキン類、揮発性成分(香り成分)等を分析し、各品種の特性を明らかにする。なお、RAD-seqによる対象茶樹のゲノム解析も引き続き行い、挿し木苗による環境要因と形態変化の関連性を評価する。

期待される成果

 機能性や新規性に富む茶の素材開発は生産現場からも必要性が高く、生産規模の拡大による需要増加も見込まれる。最近、茶産業においても、「やぶきた」一強の茶栽培・育種体系が見直され、品種を生かした「シングルオリジン」が注目されている。また、栽培特性だけなく、品質面でも様々なニーズがあり、これに素早く対応するためにも、ゲノム育種による茶の品種開発基盤の社会実装性は高い。しかし、茶の新規素材開発については既存の育成品種から多様性を見出すことは極めて難しく、可能性を秘めている在来種等の遺伝資源においても詳しい特性は不明である。本研究における在来種の特性解明は科学的意義も高く、栽培方法の確立と今後の育種対象となる有用形質を提供することができる。