植物研究助成

植物研究助成 28-05

現在種分化を起こしつつあるアキギリ属の集団遺伝分析

代表研究者 兵庫県立人と自然の博物館
主任研究員 高野 温子

背景

  シソ科アキギリ属アキノタムラソウは多年生草本で、日本、韓国、中国に分布が知られる広域分布種である。東アジア産の本属約80種を用いた分子系統解析により、アキノタムラソウは日本固有のアキギリ属植物よりも中国大陸産植物と近縁であり、固有種が分化した後日本に分布を広げたと推定された。近畿地方にはアキノタムラソウと日本固有種ナツノタムラソウが分布を接する場所が複数存在し、集団の遺伝解析により両種が交雑している可能性が示唆され、交雑のパターンが集団によって異なることもわかってきている。

目的

 伊豆半島周辺のナツノタムラソウ及びその種内分類群と、周辺のアキノタムラソウ集団の間で近畿と同様に遺伝子交雑が起こっているのか、もしそうならどの程度進行しているか、交雑の有無と遺伝子流動の方向性について、近畿地方の個体も併せて次世代シークエンサーを用いた詳細な集団遺伝解析(MIG-Seq)を実施し、明らかにする。

方法

  1. 調査地の選定 アキノタムラソウとミヤマタムラソウ、ダンドタムラソウが接して分布する解析対象集団を選択する。既に幾つか候補地点はあるものの、現地の最新の情報を得て調査地を選定する。
  2. 野外調査の実施 調査地で両分類群各20個体分のDNA抽出サンプルを採取、それぞれのおよその個体数と位置関係の把握、訪花者の確認を行う。
  3. 集団の遺伝解析(MIG-Seq)サンプルからのDNA抽出およびPCRを行い、PCRサンプルを外部委託機関に送付し、MIG-Seqデータを得る。データのスクリーニング等を行った後、集団遺伝解析及びABC解析を実施する。 他種の遺伝子の浸透度、野外調査で得られた両種の個体数と密度、両種間の地理的距離等との相関について検討する。

期待される成果

 多様な日本の植物相の成り立ちには、第四紀以降の気候変動に伴う大陸との分断と再接続による種の分布の変遷、近縁種との接触・隔離があったと考えられる。アキノタムラソウとナツノタムラソウで現在起こっている浸透性交雑とそのパターンの複雑さを解析することにより、過去日本で起こっただろう植物の種分化についての知見を提供できる。