植物研究助成

植物研究助成 28-07

伊豆諸島におけるキキョウ科ツリガネニンジン類の有効な訪花昆虫相の解明

代表研究者 大阪教育大学
准教授 岡崎 純子

背景

 伊豆諸島は、本土との距離が比較的近いにもかかわらず、地史的には海洋島であり、訪花昆虫相の変化がこの地域での植物の種分化を引き起こしてきた要因の1つとされている。材料とするツリガネニンジン類は、多型であるためツリガネニンジン類とよばれ、分類学的には3変種にまとめられている。伊豆諸島には変種ツリガネニンジンの海岸型が分布している。近畿地方のツリガネニンジン類の花は夜間に蜜を分泌し、昼行性の双翅目と夜行性の鱗翅目が有効な訪花昆虫となっている。このような昼夜で異なる昆虫種群を送粉昆虫としている植物種が伊豆諸島ではどのような昆虫を有効な訪花昆虫とするのかその研究例は少ない。

目的

 本研究では伊豆諸島におけるツリガネニンジン類の有効な訪花昆虫相を、花の異熟性を考慮し雄・雌期を区別して、その行動解析から明らかにするとともに、本植物の蜜分泌時間と開花習性の形質に分化が見られるのか、本土との距離による島間での違いに注目して検証する。

方法

 本土の海岸個体群と本土からの距離の異なる2島(伊豆大島,三宅島)を調査地として設定し、この3集団で有効な訪花昆虫相を決定する。調査はナイトビジョン撮影カメラを用い終日定点撮影を行い、同時に訪花昆虫の採集同定を行う。動画データから雄雌期への訪花の有無と訪花行動、頻度解析および開花開始子時刻と訪花昆虫の出現時間との対応を解析する。また蜜量測定により、蜜の分泌時間と量を測定する。これらの結果から昼夜の有効な訪花昆虫相を特定するとともに、開花習性と蜜分泌習性の訪花昆虫との対応を明らかにし、本土・2島間で得られた有効な訪花昆虫相に分化がみられるのかを解明する。

期待される成果

 伊豆諸島における送粉系変化に対応した植物の進化の研究はハナバチ類のようなスペシャリストを利用する種群での研究が中心となってきた。本研究では強い異熟性を持ち、本土で昼夜の異なる昆虫群を訪花昆虫として利用している植物での訪花昆虫相に組成変化がみられるのかを解明することができる。この結果により島嶼での種分化機構について繁殖生態学的に重要な例を提供することが期待できる。