植物研究助成

植物研究助成 28-08

伊豆半島におけるヒカゲノカズラ科内生糸状菌の種多様性とアルカロイド産生種の探索

代表研究者 日本大学 薬学部
准教授 広瀬 大

背景

 病徴のない健全な地上部の植物組織には系統的に多様な糸状菌(内生糸状菌)が定着している。内生糸状菌の多様性調査は近年盛んに行われているが、その多くの宿主は被子植物や裸子植物の針葉樹類であり、それらより初期に分化したヒカゲノカズラ類に関しては殆ど調査が行われていない。ヒカゲノカズラ類は生物活性を有する構造的に多様なアルカロイド(リコポジウムアルカロイド)を生産することがしられている。近年、リコポジウムアルカロイドを産生する内生糸状菌種が複数報告されている。これらのことから、ヒカゲノカズラ類は内生糸状菌と共生することで適応度を高めている可能性がある。

目的

 本研究では、伊豆半島におけるヒカゲノカズラ科内生糸状菌の分布と多様性にみられるパターンをまず明らかにする。次に、得られた分離菌株を用い各菌種のアルカロイド産生能の評価を行う。これらの結果を基に、ヒカゲノカズラ科と内生糸状菌の共生関係の進化学的意義を考察することが最終的な目的である。

方法

 「伊豆半島植生誌」のためのデータベース(神奈川県立生命の星・地球博物館)を参考に、伊豆半島全域においてヒカゲノカズラ科2属8種の採集を行う。採集した各植物個体の茎の一部を洗浄・殺菌後、内生糸状菌の分離・培養を行う。菌種の同定は、形態的特徴とrDNAの塩基配列情報に基づき行う。得られたデータの群集解析を行い、生育型(着生か地上性)、植生、標高、海岸からの距離、植物種の影響を評価する。単離した全ての菌種について、リコポジウムアルカロイドの産生の有無をUPLC-MSによる化学成分分析により評価する。

期待される成果

 本研究により、伊豆半島の様々なハビタットに生育するヒカゲノカズラ科各種の内生糸状菌フロラと内生糸状菌群集にみられるパターンを記載することができる。ヒカゲノカズラ科内生糸状菌の多様性調査は世界的にも殆ど行われていないため菌類の多様性科学において重要な知見となる。また、リコポジウムアルカロイドを産生する菌種の出現パターンが明らかになると期待されるが、その知見は陸上植物と内生糸状菌との共生関係の意義を解き明かす重要な一歩になると考えられる。