植物研究助成

植物研究助成 28-10

地球温暖化がブナ科のテルペン類放出特性と年間放出量に及ぼす影響の解明

代表研究者 静岡県立大学 食品栄養科学部 環境生命科学科
助教 望月 智貴

背景

 地球全体で、植物が生産し放出するテルペン類(生物起源揮発性有機化合物:イソプレンとモノテルペンが主成分)は人為起源揮発性有機化合物の放出より数倍多いと推定されるが、その全放出量は不明である。テルペン類は大気中で速やかに酸化され、その反応過程で局地的なオゾン生成を助長したり粒子状物質を生成し、大気質を悪化させる。日本全体におけるテルペン類放出量の推定が行われているが、広葉樹から放出されるモノテルペンが加味されていない。気候変動に関する政府間パネルの報告(IPCCレポート)によると、今後も地球温暖化が進むと予測されている。しかし、地球温暖化が広葉樹のモノテルペン放出量に及ぼす影響は不明である。

目的

 本研究では、地球温暖化が日本の主要樹種であるブナ科のテルペン類放出特性とその年間放出量に及ぼす影響を解明することを目的とする。

方法

 ブナ科ブナのテルペン類放出速度を山梨県山中湖村(年平均気温10℃)と静岡市(17℃)の生育温度の異なる2地点で測定する。夏の高温(ストレス)がブナのテルペン類放出を誘発するか確認する。
 ブナ科のシラカシとアラカシのテルペン類放出速度を植物研究園(熱海市:17℃)と静岡県御殿場市(13.5℃)の生育温度の異なる2地点で毎月測定する。夏季に温度・光強度の短時間変動に対するテルペン類放出速度の変化を測定する。樹種ごとに、テルペン類放出速度の季節変化や温度・光強度応答性の関係を数式化(モデル式を作成)する。モデル式に気温と光強度のデータを導入し、シラカシとアラカシの年間テルペン類放出量を算出する。生育温度の違いがそれらテルペン類放出量にどの程度影響するか明らかにする。
 テルペン類採取はリーフキュベット法で行う。リーフキュベットに葉をはさみ、モノテルペンを含まない空気をリーフキュベット内に通気する。リーフキュベット出口空気の一部を採取管に捕集し、加熱脱着してガスクロマトグラフ質量分析計に導入して定量分析する。

期待される成果

 地球温暖化に伴うブナ科3種のテルペン類放出量の変化を解明し、将来のオゾンと粒子状物質の生成を予測するための基盤データを取得できる。