植物研究助成

植物研究助成 28-12

伊豆諸島における長口吻送粉者の不在が植物の繁殖に与える影響

代表研究者 神戸大学 人間発達環境学研究科
教授 丑丸 敦史

背景

 世界的に長口吻送粉者の急減が報告されてきたが、野外植物群集を対象にこの急減がもたらす影響を調べた研究は少ない。伊豆諸島ではマルハナバチ・アゲハチョウの不在により、長花筒植物では、小型ハナバチやスズメガへの花の適応が起こるとされてきた。申請者らは平成29年度の研究で、長口吻送粉者の不在は、多くの長花筒植物の花筒をより長くする進化を促す可能性を見出した。この発見を受けて平成30年度は、島嶼では長花筒植物はスズメガ媒に適応した花形態を進化させたという仮説を立て検証を行ったところ、長花筒花をもつハマヒルガオでは、スズメガではなく、小型ハナバチへの適応が花の大型化を引き起こしていることを発見した。これは、一般的とされてきた「海洋島では小型ハナバチ媒への適応が花を小型化させる」というパタンとは全く逆のパタンであり、新規性の高い発見である。

目的

 伊豆諸島のハマヒルガオ集団を対象として、「小型ハナバチへの適応が花の大型化をもたらす」という新規の進化パタンの存在を証明する。

方法

 ハマヒルガオを対象に、温室における同一環境下栽培により、島嶼における花の大型化が遺伝的基盤をもつものか明らかにする。また、本州や伊豆諸島での調査地点を増やし、島での花の大型化の普遍性を再確認する。
 一方、分子マーカーを利用して、本州(5-8集団:既存の調査地に新たに伊豆半島と三浦半島の集団を追加)と伊豆諸島(5-8集団:大きな島では別集団も追加)の集団から各30個体の葉サンプルを分子遺伝解析用に採取し、本州と伊豆諸島の集団間に遺伝分化が見られるのか明らかにする。

期待される成果

 これまで植物研究助成の援助を受け行ってきた研究から、長口吻送粉者の減少やそれによってもたらさられる小型ハナバチなどの短口吻送粉者の優占は、植物群集の送粉成功を減少させ、花に新たな進化を引き起こす原動力になりうることが明らかになってきた。本課題では、研究結果を発展させ、島嶼における小型ハナバチの優占は花の大型化をもたらすという新規の進化パタンがあることを世界に発信できる。これは、長口吻送粉者の喪失がもたらしうる生態学的・進化的な帰結が非常に多様でありうることを示す重要な成果となると考えている。