植物研究助成

植物研究助成 28-14

弱励起極限の熱緩和スペクトル測定による光合成効率評価法

代表研究者 東京理科大学 理学部第一部 物理学科
教授 徳永 英司

背景

 植物は自然界で過剰な太陽光強度に対する防御機構を発達させていて、晴天の日の地表の太陽光強度100mW/cm2の1/10の強度で過剰エネルギー散逸メカニズムが働き始める。こうした事実の解明に、パルス変調蛍光(PAM)法など、蛍光測定に基づく光合成効率の評価法が貢献してきて、非光化学消光や光合成の量子収率の測定が行われている。例えばPAM法では、光化学系を完全に飽和させる強いフラッシュ光を使用し、その照射前後で熱緩和rateが変化しないと仮定しているが、この仮定が正しいかどうか自明でない。一方、植物の光励起に伴う熱発生の研究は光音響分光、光熱分光などにより行われてきたが、真の熱緩和スペクトルの測定には成功していない。つまり、光エネルギーの光合成利用や蛍光散逸が期待通り起こっているなら、葉緑体では光熱スペクトルと吸収スペクトルの違いが生じるはずであるが、そのような報告はない。違いが報告されたことがない理由として、自然の光合成環境でなく密閉容器中や水中で実験している、励起光に比較的高強度の光源を使って光合成効率が落ちている、などが考えられる。

目的

 我々は光熱変換分光法の1種である光熱偏向分光法にSagnac干渉計を組み合わせて桁違いの高感度化に成功していて、白色光ランプを分光した光源を励起光として高い信号雑音比での空気中の光熱スペクトル測定を実現し、昨年度、蛍光体において世界で初めて吸収スペクトルと明確に異なる熱緩和スペクトルの測定に成功した。この方法をさらに高感度化し、弱励起極限における生きた光合成生物の熱緩和スペクトル測定を実現し、それによる光合成効率の評価法を確立するのが目的である。

方法

 Sagnac干渉計光熱偏向分光法の開発で光路の振動ノイズを抑制して従来法に比べて一桁の感度上昇を実現しているが、干渉計にリング共振器を組み込んでプローブ光を試料と多数回相互作用させ、さらに一桁の感度上昇を実現する。

期待される成果

 生きた光合成生物の自然な生育環境での弱励起極限(光合成効率最大)熱緩和スペクトルの測定が実現し、吸収スペクトル(発光励起スペクトルで代替可能)との相違から光合成効率を定量的に見積もる解析法が確立する。PAM法を補完することで熱放出による過剰光エネルギーに対する防御機構の研究がより精密になる。容易に光合成効率が評価できるので、高光合成効率植物や強光励起で効率が落ちない植物への改良研究を高速化できる。