植物研究助成

植物研究助成 28-18

植物の光環境への適応を制御する葉緑体光定位運動の非破壊的測定技術の開発

代表研究者 九州大学
助教 後藤 栄治

背景

 光合成に依存して生育する植物は移動能力がないため、自然状況下では様々な光環境に適した光合成を行う必要がある。光環境に適した光合成には、光合成の場である葉緑体が細胞内で光環境に応じた分布変化(葉緑体光定位運動)をすることが重要であり、葉緑体光定位運動が異なる光環境への適応を決定する重要な因子であることを申請者は明らかにしてきた。
 野外の植物の葉緑体光定位運動を解析した結果、植物が進化の過程で異なる光環境に対して異なる葉緑体光定位運動の応答性を獲得したことを見出した。興味深いことに、林床でのみ生育する植物の多くは、葉緑体の運動性を完全に欠いた一方で、柵状組織細胞は葉面に対して逆円錐形で、葉緑体は円錐側壁に配置されており、散乱光の受容効率が高くなることが分かった。しかしながら、逆円錐形の細胞をもつ植物は光吸収効率が高いために、太陽光に短時間曝すと枯死することが分かった。これらの結果により、葉緑体光定位運動の運動性を指標に逆円錐形の細胞をもつ植物を判別することができれば、生態系や植生の保全において重要な知見を提供すると考えられた。

目的

 そこで本研究では、葉緑体光定位運動の運動性を指標として、生育光環境の変化に適応できる植物種とできない植物種を、汎用的な装置で非破壊的に判別できる技術の構築を目指す。

方法

 光合成に有効な赤色光は葉緑体に吸収されるため、細胞内の葉緑体の位置によって透過する赤色光の量は変化する。また、葉緑体の運動変化は青色光によってのみ誘導される。そこで、青色光で葉緑体光定位運動を誘導し、同時に赤色光の透過率変化のみを経時的に検出できる装置を組む。さらに、貴財団の植物研究園に生育する植物種を用いて、技術開発する装置の有用性を評価する。

期待される成果

 逆円錐形の細胞をもつ多くの植物は、絶滅危惧種もしくは準絶滅危惧種に指定されていた。そのため、生態系の維持や植物の保護のような現場で、専門的な知識がなくとも植物の光環境への適応についての情報を得ることができる本技術は非常に有効であり、汎用性が高い技術として国内のみならず世界中で導入されると期待される。