植物研究助成

植物研究助成 28-19

植物の栄養状態を把握するためのバイオセンサーの開発

代表研究者 東洋大学 生命科学部
教授 梅原 三貴久

背景

 植物は一度大地に根を張ると、その場から移動できない。そのため、植物が根から吸収できる無機栄養は根の周辺の狭い範囲に限られ、植物は常に貧栄養環境にさらされている。これまで、植物の栄養状態を把握するためには、高額の実験装置と特殊な薬品が必要であった。そこで、植物の形態から栄養状態を認識できれば、低コストで簡便に植物の栄養状態を把握できる。イネのラミナジョイントは、葉身および葉鞘という2つ組織を連結するヒンジの役割を持ち、この角度は貧栄養環境下では小さくなり、富栄養環境下では大きくなる。

目的

 本研究では、イネのラミナジョイントの角度制御と根圏の栄養状態との相関関係を明らかにすることで、ラミナジョイントの角度を指標とした植物の栄養状態を把握するためのバイオセンサー技術に応用する。

方法

 イネを各多量必須無機栄養元素が欠乏した条件で水耕栽培を行う。栽培中、ラミナジョイントの角度の状態をタイムラプスで画像を取得し、ラミナジョイントの角度の変化について解析を行う。また、角度が開く速度の計測、ラミナジョイントにおける植物ホルモンの定量、角度調節に関わる遺伝子の発現解析を行う。さらに、植物体の栄養成分の含量について分析する。これらのデータを統合してラミナジョイントの角度制御と根圏の栄養状態との相関を明確にする。

期待される成果

 ラミナジョイントの角度を土壌中の栄養状態や植物自身の栄養状態を視覚的に判断するためのバイオセンサーとして利用できれば、迅速に植物の栄養状態を把握でき、農業の場面では安価かつ簡便に施肥のタイミングを決定できる。適切な施肥のタイミングが定まれば、過剰な肥料を投与することがなくなり、周辺環境の汚染防止につながる。また、ラミナジョイントの角度が大きい場合、個体間の葉が重なるため、疎植しなくてはならない。一方、角度が小さい場合には密植が可能になる。したがって、ラミナジョイントの角度を調節することは、最終的に全体的な収量に影響を与える農業上の重要な形質である。