植物研究助成

植物研究助成 29-01

茶育成品種との比較を通じた植物研究園周辺地域の茶在来種の特徴づけ

代表研究者 静岡大学 学術院農学領域
准教授 一家 崇志

背景

 日本の茶栽培は、エリート品種「やぶきた」とその血を受継ぐ品種群が栽培面積の大部分を占めている。一方、日本国内には形態、成分品質や病害抵抗性等の有用形質ついて多様性を持つ茶在来種(遺伝資源)が存在しており、国内の茶消費拡大のためにも特徴的な個性をもつ在来種の利活用が望まれている。この遺伝資源を活用する試みについては、品種間のゲノム情報に加えて、カテキン等の既知の生理活性物質やその他の有用化合物の含量情報が、バイオリソースに産業的な情報付加価値を与える。

目的

 熱海市および伊豆半島を中心とする地域にも、多くの茶の在来種が存在している。一方、伊豆半島は地球科学的に見てもその土壌環境が大きく異なり、特性が異なる在来種が存在する可能性が高い。本研究では、熱海植物研究園内とその周辺に分布する茶について、遺伝的および化学的特性を調査し、「既知の在来種」や「育成品種」との比較を通じたその個性の特徴付けを行ない、新規育種素材としての利用性を明らかにする。

方法

 2019年に作製した茶挿し木苗を水耕栽培系に移植し、経年的な環境要因がもたらす茶樹の形態や成分変動変化の影響・関連性を評価する。また、昨年度に引き続き、研究植物園について適正な肥培管理を行ない、5月中旬の一番茶摘採時期に新芽を収穫する。昨年度と同様に新芽中のアミノ酸やカテキン類等の主要化学成分の網羅的な分析を行い、各品種の特徴づけを行なう。

期待される成果

 機能性や新規性に富むチャの素材開発は生産現場からも必要性が高い。最近、茶栽培・育種体系が見直され始め、品種を生かした「シングルオリジン」が注目されている。つまり、栽培特性だけなく、品質面でも様々なニーズが生じており、これに素早く対応可能するためにも、ゲノム育種による茶の品種開発基盤の社会実装性は高い。しかし、茶の新規素材開発については既存の育成品種から多様性を見出すことは極めて難しく、可能性を秘めている遺伝資源の詳しい特性も十分な知見はない。つまり、本研究における在来種の特徴付けと遺伝要因・環境要因との相関解析による全体像の解明は科学的意義も高く、栽培方法の確立と今後の育種対象となる有用形質を提供することができる。