地球環境研究助成

地球環境研究助成01-02

脱水素化触媒を活用した水素エネルギー利用促進の為の技術開発

代表研究者
京都大学 大学院人間・環境学研究科
教授 藤田 健一

研究の背景・目的

 脱炭素社会の構築を目指すにあたり、水素エネルギーの有効活用が求められている。水素は、重量当たりのエネルギー密度が極めて高いという特性を有し、電気エネルギーをはじめとする他のエネルギー形態への変換が容易であるという特長を有する。一方で、水素を直接輸送するための社会インフラが不足しているため、現状では、水素の高度利用があまり進んでいない。特に、水素を社会に供給し、エネルギー利用を促進するための拠点が不足しているという問題がある。この状況を考慮すると、水素の輸送と貯蔵のための斬新な基礎技術の開発が不可欠である。本研究は、研究代表者がこれまでに開発してきた有機分子の触媒的脱水素化反応を格段に発展させ、水素供給拠点の拡充を図り、水素エネルギー利用促進へとつなげるための基礎技術の開発を目的として遂行する。

研究内容・課題

 有機分子の触媒的脱水素化反応を活用し、高付加価値有機生成物と水素とを大規模で同時生産する新しい反応系を開発する。これにより、水素を輸送することなく水素ステーションの現場で水素製造を行うとともに、高付加価値有機物を生産する。すなわち、危険な水素の輸送を伴わない水素ステーション設立を可能にし、これとあわせて高付加価値有機物を同時に製造することによる経済性の確保を狙う。

課題解決の研究手法

 まず、水に易溶かつ分解しない触媒を開発することに取り組む。さらに、脱水素化反応を水溶媒中で高効率的に進行させるために、触媒の中心金属に結合させる機能性配位子の骨格内に電子供与性置換基を導入することを検討する。これらの研究によって、研究代表者らがこれまでに開発してきたビピリドナート系機能性配位子を持つイリジウム錯体触媒に比べて格段に高性能化した新規触媒を得る。また、この取り組みを通じ、実用レベルに耐える新規触媒の創製へ発展させることを目指す。

期待される研究成果

 本研究で開発する、高付加価値有機生成物と水素とを生成する新しい触媒系によれば、有機合成化学的にみて重要で大量生産・大量消費が見込まれる化合物を与えるだけでなく、エネルギー源として有用な水素を同時生産できる。しかも、有害な副生成物をまったく生み出さず、二酸化炭素の排出もまったく無い。なお、反応の実施に際し、加熱が必要であるが、水中の還流条件下で行うため、工業界における廃熱で賄える温度領域での反応を想定している。このように本研究は、地球環境の保全と、地球温暖化防止に貢献する新しい技術開発につながるものであるといえる。