地球環境研究助成

地球環境研究助成02-02

森林保全による気候変動緩和を実現するための生態系・社会システム複合モデルの構築

代表研究者
国立大学法人東京大学先端科学技術研究センター・教授
森 章

研究目的

 地球温暖化緩和には、森林をはじめとする陸域生態系の役割は極めて大きい。樹木の光合成、一次生産の過程で大気中より吸収される二酸化炭素の量は、年間に人為的に放出される二酸化炭素の30%にまで至る。ここで留意すべき点は、国際的な森林施策の枠組では植林化が主目標である。しかし、生物多様性に富む森林生態系は、植林地の炭素吸収能力を凌駕する。本研究では、そのような多様性を育む森林の保全又は再生による炭素収支への影響、さらには経済コストへの帰結までを定量化した。気候変化予測シナリオをもとに、生物多様性の予測モデルを構築した。

研究方法

 樹木種の分布データ、樹木群集の炭素吸収能、将来的な土地利用の変化など、複数のモデルを統合して、全球規模で森林生態系の炭素隔離能の変化を予測した。貿易データや社会シナリオを用いて、各国々の炭素と生物多様性フットプリントを定量化し、将来的な最適化の方策を探った。さらには、科学的知見の発出と政策還元における社会の在り方についても検討を行った。以上のような様々な社会経済要因を踏まえて、「気候変動」と「生物多様性変化」の相互作用を問う「生態系・社会システム複合モデル」を構築した。

研究成果

 将来的な生物多様性の保全により、森林の炭素吸収機能の損失の9〜39%を回避できる可能性を示した。また、温暖化が経済損失をもたらす恐れのある国ほど、生物多様性保全を介した温暖化抑制により、経済損失を回避できることが示された。また、保護区を通じた生物多様性の保全活動が、一次生産性と炭素隔離能の保全に有効であることが分かった。さらに、食料システム再考による森林の炭素と多様性保全の在り方を探ったところ、遠隔環境責任の国や地域間差が明らかになった。

まとめ

 土地利用を再考し、樹種多様な森林を持続可能な形で維持することが求められている。森林は生物多様性とともに、気候安定、土壌形成、災害低減などといった、数多の恵み(生態系サービス)を支えている。本研究の成果を鑑みると、これまで以上に「生物多様性の役割」を注視すべきと言える。そして、食料システムの在り方をはじめとする社会の行動変容が、さまざまな地域や将来に対する責任を持っていることも見いだされた。

地球環境保全・温暖化防止への貢献

 地球規模生物多様性枠組で見据えられたような、将来に残すべき地球環境の保全のためには、気候変動と生物多様性の変化といった環境課題をそれぞれ独立に考えるのではなく、まさに双子と捉えて課題解決に向けて取り組む必要がある。今回の知見は、生物多様性が地球上の炭素循環に関わることを示し、将来的な気候変動予測の精度を高めることにも貢献すると期待される。

主な成果発表

(1) Mori et al. 2020, Nature Communications
(2) Mori et al. 2021, Nature Climate Change
(3) Mori et al. 2023, Philosophical Transaction of the Royal Society B