復興支援特定研究助成

復興支援特定研究-06

研 究 題 目
キノコ原木中の放射性セシウム濃度低減を実現する新技術の開発
所属機関・役職
東京大学 大学院農学生命科学研究科 助教
代 表 研 究 者
小林 奈通子

【研究目的】

福島県の71%を占める森林では、放射性セシウムによる被害からの復興が著しく遅れている。キノコ原木生産産業は、キノコ原木の放射性セシウム濃度の指標値(50 Bq/kg)を満たすことが困難であることから、現在においても壊滅的な状況にある。本研究では、放射性セシウム濃度の低減効果を最大限に発揮しながらも、林業従事者が森林施業に取り入れられる新技術の開発を試みる。

【研究方法】

本研究では、カリウムの施肥や石灰の施用が根による放射性セシウムの吸収に及ぼす効果を、低減対策技術案として検討中のカリウム施肥、土壌pH調整剤投入、萌芽更新を試験的に2015年末に実施した6林分における定期調査、および、実験室内でのCs-137トレーサー実験によって検証した。
6林分では、2016年春に新たに植えつけた苗木と、2015年に伐倒した切り株から発生した萌芽枝を2016年冬に採取した。それぞれの放射性セシウム濃度を測定し、低減策の試行一年目における効果を検証した。また、今後10年以上にわたる継続調査では、幹内の放射性セシウム濃度を経時的に把握することが課題となる。そこで、シイタケ原木として使用される幹の放射性セシウム濃度と高い相関を示す要素を探索するため、幹(樹皮および材)、当年枝、葉、土壌のセシウム濃度を測定した。

【研究成果】

2015年冬に施肥を行い、2016年春にコナラなどの苗を植えつけ、一部を2016年冬に採取した。採取した苗のCs-137含量を測定したところ、一部の林分では早くもカリウム施肥によるCs-137吸収の低減が見られた。トレーサー実験ではカリウム条件の異なる苗におけるCs-137の吸収量と体内分布を調べ、カリウム欠乏の苗ではCs-137の吸収量が多く、また、若い組織に優先的にCs-137が分配されることを見出した。このようなセシウムの動態は、イネなどの草本植物で見られたものと合致する。
幹のセシウム(Cs-133)濃度と高い相関を示す要素を探索したところ、幹と当年枝、あるいは、幹と葉の間に高い相関があることが見出された。ただし、Cs-137については、直接汚染の影響が樹皮に残っている場合には幹と当年枝や葉の間に相関が無くなった。しかし、樹皮を除いた「材」のセシウム濃度は、当年枝や葉の濃度と高い相関を示した。

【まとめ】

カリウム施肥のセシウム低減に対する効果が期待できる結果となった。当年枝や葉のCs-137濃度に基づいて、材の濃度が精度高く推定できることが示された。今後はこれらの結果を基に、カリウム散布の効果を継続的に調査していく予定である。