市村産業賞

第41回 市村産業賞 貢献賞 -02

耐食性を飛躍的に向上させた環境適合燃料タンク用鋼板の開発

技術開発者

新日本製鐵株式會社 技術開発本部 八幡技術研究部
主幹研究員 黒崎 将夫

技術開発者 同 社 同本部 同 部
主任研究員 後藤 靖人
技術開発者 同 社 八幡製鐵所 薄板部
マネジャー 水口 俊則
推  薦 社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 自動車燃料タンクの材料は1960年代から鉛-錫めっき鋼板(商品名「ターンシート」)が主流であったが、環境負荷物質(鉛)フリー化や、例えば「15年15万マイル保証」などの耐食性向上の要請から、錫-亜鉛めっき鋼板(「エココート-T」)を2000年に開発した。一方、同時期から将来的な石油資源への依存低減を目指し、より厳しい腐食条件を考慮せねばならないバイオ燃料の導入が検討され、更なる耐食性が求められていた。
 本技術は、錫(バリア型防食)と亜鉛(犠牲防食)の両機能が確実に発揮され、高い耐食性能が得られる理想的なめっき状態を検討し、それを実現するためのめっき凝固のメカニズムを解明し、めっき凝固組織を制御する工業的なプロセスの開発である。その結果、従来プロセス設備を活用して、鋼板両面に安定した品質のめっき処理を実現する条件を具体化し、劣化バイオディーゼル燃料や水分を含むバイオエタノール混合燃料等の厳しい条件下でも、高い耐食性の錫-亜鉛めっき鋼板の開発に成功した。
 開発鋼板は、1従来の金属材料と比較して最も優れた耐食性を有し、燃料タンクの長寿命化保証が可能、2耐食性能に優れるため、めっき母材として高張力鋼板の使用が可能で、より板厚の薄い鋼板を使用することによる軽量化、燃費性能向上に貢献、3燃料透過が皆無、100%リサイクル可能、製造に要するエネルギー量が少ないといった鉄が持つ利点を損なわない、という特徴を有する。
 2005年販売開始以降、金属製燃料タンク材の本開発鋼板(「エココート-S」)への置き換えが急速に進み、現在国内で生産される燃料タンクの約2/3を占める金属製の大半に使用されている。また、自動車メーカーと共同で、本開発材の特徴を最大限に発揮するための技術を追求している。

図1 開発鋼板(エココート−S)のめっき組織
図1 開発鋼板(エココート−S)のめっき組織
図2 腐食試験結果の例 (軽油+劣化バイオディーゼル油+水、10年間に相当する促進試験結果
図2 腐食試験結果の例
(軽油+劣化バイオディーゼル油+水、10年間に相当する促進試験結果)

図3 本開発材を用いた燃料タンクの例
図3 本開発材を用いた燃料タンクの例(ユニプレス社製)