市村産業賞

第41回 市村産業賞 貢献賞 -03

低価格・低環境負荷を実現した高速めっきシステムの開発と実用化

技術開発者

スズキ株式会社 開発部
係長 村松 仁

技術開発者 同 社 同 部
課長 河合 眞
技術開発者 同 社 同 部
部長 石塚 哲
推  薦 社団法人 日本自動車工業会

開発業績の概要

 今日、地球環境保護の世論が非常に高まっており、自動車メーカーとしてもCO2排出量削減と燃費向上が最重要課題となっている。その解決策の一つとして、「めっきシリンダ」が期待されている。しかし、めっきシリンダは製造コストが高く、生産工程で多くの薬品を使用することによる環境影響が大きいため、普及拡大することができなかった。そのため、環境に優しいめっきシリンダを低価格で生産できる新技術の開発が切望されていた。
 本技術開発では、安価なアルミダイカスト合金へ適用可能な新しいめっき前処理技術「電解エッチング法」を開発し、工程数を従来の5工程から1工程へ削減することで、薬品使用量の大幅低減を実現した。また、不溶性陽極を適用した「クローズドめっき法」は、大電流密度の実現によるめっき時間短縮と炭酸ニッケルによる薬品補給の効率化を達成した。このめっきシリンダの適用により、シリンダ素材を鋳鉄からアルミダイカスト合金へ変更できるため、鋳造工程のCO2排出量を84%削減し、また、軽量化や冷却性効果によりエンジンの燃費向上が図れ、走行時のCO2排出量も8%削減している。開発した電解エッチング法とクローズドめっき法で構成される高速めっきシステムは、めっきシリンダの処理コストを従来より60%低減できている。さらに、製造時及び走行時のCO2排出量を大幅に削減したことで、地球環境保護に貢献している。
 本技術は、スクーターから大型機種までほぼ全ての二輪車に採用され、2007年より開始したタイ及びインドネシアでの海外生産を加え、累計生産台数は216万台に達する。また、2008年からは、特許ライセンス契約により、汎用機器メーカーにおいても生産を開始し、用途拡大を実現させた。今後は、四輪車での実用化を控え、さらなる環境負荷低減が期待される。

図1 鋳造工程のCO2排出量 図2 走行時のCO2排出量
図1 鋳造工程のCO2排出量   図2 走行時のCO2排出量
図3 めっきシリンダ(50cc) 図4 めっき皮膜断面写真
図3 めっきシリンダ(50cc)      図4 めっき皮膜断面写真   
図5 めっき装置概略図
図5 めっき装置概略図