市村産業賞

第41回 市村産業賞 貢献賞 -04

疲労寿命延伸を可能とした新機能鋼材の開発と実用化

技術開発者

住友金属工業株式会社 総合技術研究所
専門部長 有持 和茂

技術開発者 同 社 鋼板・建材カンパニー 厚板技術部
参事 稲見 彰則
技術開発者 同 社 総合技術研究所 厚板・条鋼研究開発部
主任研究員 誉田 登
推  薦 社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 金属を構造材として使い始めて以来、人類と金属疲労との戦いは続いている。1837年の最初の報告から、コメット号連続墜落事故、近年では、日航機墜落事故、もんじゅNa漏れ、大阪の遊具車軸破断事故、ミシシッピー落橋事故と枚挙に暇がない。溶接鋼構造物では、溶接部が疲労き裂の発生源となり、その後、き裂は母材鋼板内部を進展して損傷が拡大する。従来は、設計・施工の観点から改善をはかってきた。しかし、これらの方法では重量増、コスト増を避けられない上、さらなる改善は困難である。一方で、鋼材で改善することは20年以上も前に断念されていた。
 本開発は、鋼材で改善できない、との常識に対し、溶接部の疲労き裂発生ならびに母材部のき裂進展を、適切な金属組織で改善すべく、1988年基礎研究を開始した。その結果、疲労損傷防止は、溶接部、母材部に硬相/軟相からなる最適な複合組織の活用で達成できることを示した。開発鋼を実現する上では、DAC(Dynamic Accelerated Cooling)と言う独自の加速冷却設備を活用し、圧延直後の厚鋼板を精密に温度コントロールしつつDACで水冷し、各種金属組織の造込みを行った。
 本開発鋼は、最適な複合組織によって疲労負荷の集中を低減し、疲労損傷を低減している。例えば、母材部を進展する疲労き裂に対しては、最適な金属組織により、疲労損傷の拡大を大幅に抑制した(図1)。図2に開発鋼の疲労特性例を示す。この特性により、疲労寿命を4倍以上延伸するだけでなく、構造物の軽量化も可能で、船舶では燃費向上で炭酸ガス排出を抑制できる。結果として、開発鋼の適用量、適用対象は短期間に大幅に増大し、船舶には既に約100隻、総トン数ベースで国内新造船の1割に相当する。また、橋梁への適用も進んでいることから、船舶以外の大型構造物への適用拡大が期待できる。

図1 疲労き裂進展抑制のメカニズム
図1 疲労き裂進展抑制のメカニズム
図2 開発鋼の疲労特性
図2 開発鋼の疲労特性
図3 開発鋼の適用例
図3 開発鋼の適用例