市村産業賞

第42回 市村産業賞 本賞 -01

移動通信システムの送信電力制御技術

技術開発者

日本電気株式会社 システムプラットフォーム研究所
研究部長 濱辺 孝二郎

技術開発者

同 社 知的資産開発推進部
知的資産開発推進部長付 吉田 尚正

推  薦 社団法人 電気通信協会

開発業績の概要

 より豊かなコミュニケーションのニーズに応えるために、インターネットにも接続可能で全世界で共通に利用できる移動通信システムの実現が期待され、第三世代移動通信システムの開発が検討された。第三世代移動通信システムでは、無線アクセス方式として符号分割多重(CDMA)方式が採用され、下り回線における送信電力の高速閉ループ制御、及びソフトハンドオーバにより、無線伝送容量拡大と場所によらず高品質な通信の両立を図ろうとしていた。しかし、この2つの技術を併用すると、各々の基地局での制御命令の受信誤りの発生により送信電力の均衡が崩れる「電力ドリフト」が生じ(図2(a))、送信電力が必要以上に大きくなりサービスを提供できる利用者数が減少する問題や、場所によって品質が劣化する問題が生じた。そのため、容量と品質の両立には送信電力の均衡が不可欠であった。
 開発した送信電力制御技術は、各々の無線基地局において、携帯電話端末から通知される制御命令に基づいて送信電力を増減する高速閉ループ制御を行なうと共に、送信電力と予め決められた基準電力との差を収束係数による所定の割合で減少させることで、送信電力を基準電力に近づける(図1)。この制御を、WCDMAの場合、1秒間に1,500回と高速に繰り返すことで、複数の無線基地局の間で送信電力の均衡が崩れた場合にも、送信電力の均衡を高速に回復させることを可能とした(図2(b))。
 本技術では、時々刻々と変化する送信電力の値を情報交換する無線基地局間の高速通信が不要で、送信電力均衡の維持が可能となり、無線伝送容量拡大と場所によらず高品質な通信の両立を実現した。さらに、送信電力を低減でき、無線基地局の省電力化にも貢献している。本技術を用いた無線基地局は、2001年に製品化し、第三世代移動通信システムの構築に貢献してきた。また、WCDMA方式の国際標準規格に必須技術として採用され、世界中に拡大する市場で広く利用されている。

図1 開発技術の構成
図1 開発技術の構成
図2 基地局間における送信電力均衡維持の効果
図2 基地局間における送信電力均衡維持の効果