市村産業賞

第42回 市村産業賞 貢献賞 -02

高い船体安全性を備え地球温暖化防止に寄与する高強度鋼板の開発

技術開発者

株式会社 神戸製鋼所 加古川製鉄所 技術研究センター
研究員 金子 雅人

技術開発者 同社 同製鉄所 同センター
主任研究員 谷 徳孝
技術開発者 同社 大阪支社 厚板商品技術部
主任部員 古川 直宏
推  薦 社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 近年、地球温暖化防止の観点から船舶においても低燃費、CO2削減に対する期待は大きくなりつつあり、大型化と相まって、重量低減が期待できる高強度鋼板が求められている。また、万一事故を起こした場合のオイル流出等による海洋環境に与える影響や経済的損失が大きいことから、高い船体安全性が求められ、鋼板には脆性破壊を防止する特性が要求されている。さらに、建造時の溶接施工の効率化や省エネルギー化を達成できる良好な溶接施工性を具備した鋼板が切望されていた。
 本技術は、レアメタルを添加しないで、船体の高い安全性と良好な溶接施工性を備えた高強度YP47s級鋼板を実現したものである。その過程で、以下のキー技術が確立されている。

(1) 低成分系にて高強度化を達成するための均一強冷却が可能なTMCP(Thermo Mechanical Control Processing)技術、
(2) 高靱性の母材金属組織を造り込むための多段冷却による圧延時の温度制御と圧下率の厳密制御を可能とするプロメ(Plate Rolling system for Mechanical property control)技術、
(3) TiN微細分散による溶接部組織の微細化と破壊の起点となるMA(島状マルテンサイト)を抑制する大入熱溶接時の靱性劣化防止のための組織制御技術。
 本開発鋼板は、従来鋼板に比べて、微細な母材組織を有し(図1)、大入熱溶接においても結晶粒の粗大化を防止できるため、脆性破壊に対する高い安全性と高効率的な溶接施工性を具備している(図2)。また、高強度化に伴う軽量化効果で低燃費・CO2削減が可能であり、具体的には、本開発鋼板をコンテナ船に適用することにより(図3)、約1500トン/年・隻のCO2削減効果が期待できる。さらに、レアメタルを添加していないため、容易にリサイクルできるので、今後想定されるレアメタルの入手難の状況下においても、安定供給が可能になる。将来的には、船舶以外にも橋梁、建設・運送機械、エネルギー等へ適用することにより、地球環境への更なる貢献が期待できる。

図1 開発鋼板の微細な組織 ※EBSP測定画像
図1 開発鋼板の微細な組織
※EBSP測定画像

図2 開発鋼板適用による溶接時間の短縮
図2 開発鋼板適用による溶接時間の短縮
図3 開発鋼板の適用部材一例
図3 開発鋼板の適用部材一例