市村産業賞

第42回 市村産業賞 貢献賞 -04

超高層ビルの安心・安全・省資源設計施工に対応した高耐震性高強度鋼の
開発

技術開発者

JFEスチール株式会社 スチール研究所 土木・建築研究部
主任研究員 加村 久哉

技術開発者 同 社 同研究所 厚板・形鋼研究部
主任研究員 鈴木 伸一
技術開発者 同 社 東日本製鉄所 商品技術部
室長 石川 操
推  薦 社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 建築物に使用される鋼材は、引張強さ490N/mm2級の鋼材が一般的であるが、超高層建築では、板厚が厚くなるため鋼材重量の増加や溶接施工時の負荷増加の問題がある。このため、超高層建築では、耐震性(低降伏比、高溶接性)を有する高張力鋼の使用により、耐震安全性とコストダウンの両立が望まれている。しかし、従来の耐震性を有する高張力鋼材は、高価格や溶接施工者の限定などからその使用は限定的であった。
 高張力鋼でありながら、良好な耐震性を有し、かつ安価な引張強さ550N/mm2の建築構造用鋼材を開発した。これは、圧延において高い冷却速度と均一な冷却が可能な加速冷却(Super-OLAC)の適用による組織制御と、溶接部の性能を考慮した高度な成分設計の組合せで初めて達成された技術である。開発鋼板は熱処理なしの圧延のままで製造され(TMCP型)、その設計基準強度は385N/mm2とTMCP型の耐震性高強度鋼材としては最高である。
 本開発鋼は、低降伏比(降伏強さと引張強さの比)と優れた溶接性(靭性と溶接しやすさ)が実現されている(図1)。その結果、変形性能に優れるとともに大入熱溶接が適用される溶接組立箱型断面柱の角部でも高い靭性の確保が可能である。また、熱処理が必要ないため鋼材製造コストの低減、製造工期の短縮が可能である。さらに、490N/mm2級鋼に比べて18%の強度アップによる鋼材重量の12〜20%低減と、溶接工数の低減等の効果をあわせ、鉄骨コストを約20%低減できる(図2)。
 本開発鋼材は優れた経済性、耐震性、溶接性を兼ね備えており、建築構造物の設計自由度の拡大とともに、安心安全や環境対応など多様化する社会的ニーズへの対応が可能で、その適用(写真1)が増加している。

図1 鋼材の強度と降伏比の関係およびミクロ組織
図1 鋼材の強度と降伏比の関係およびミクロ組織
写真1 開発鋼が適用された超高層建築物(グランタワートウキョウ)
写真1 開発鋼が適用された超高層建築物
(グランタワートウキョウ)
図2 本開発鋼による鉄骨製造コスト・環境負荷の低減効果
図2 本開発鋼による鉄骨製造コスト・環境負荷の低減効果