市村産業賞

第43回 市村産業賞 本賞 -01

平坦化SiO2膜/Cu電極/基板構造小型弾性表面波デュプレクサ

技術開発者

株式会社 村田製作所 技術・事業開発本部 門田研究室
室長 門田 道雄

技術開発者

同社 同本部 開発1部
係長 中尾 武志

技術開発者

同社 EMI事業部 商品開発部
主任 西山 健次

開発業績の概要

 米国のPCS方式携帯電話システムでは送信周波数と受信周波数との間隔が非常に狭くそれらが混信しないように温度安定性と急峻な周波数特性を、また全世界向WCDMA方式等では低消費電力のため温度に依存しない低挿入損失をもつデュプレクサが要求される。更に、周囲温度変化以外にも、携帯電話への投入電力による発熱から生じる周波数変動があるため、なお一層の温度安定性が必要である。一方、温度特性が良好な誘電体デュプレクサ(図3(a))は形状が非常に大きく、高価なため、小型、低価格な弾性表面波(SAW)を用いたデュプレクサが望まれていた。しかし、Al電極がLiTaO3やLiNbO3圧電基板上に形成された従来のSAW素子の温度特性は-42〜-120ppm/℃(1℃当りの周波数変動量)と悪く、温度安定性の良好なSAWデュプレクサは実現されていなかった。
 温度安定性改善の方策として、負の温度係数をもつAl電極/LiTaO3やAl電極/LiNbO3圧電基板上に正の温度係数をもつSiO2膜を形成する手法がトランスッバーサル型SAWフィルタで提案されているが、この構造をラダー型のSAWデュプレクサに適用した場合、挿入損失の劣化が大きいため、実用化は困難と考えられていた。
 本技術開発では、上記挿入損失劣化の原因が厚いAl電極/基板上に形成したSiO2膜表面にAl電極と同じ厚みの大きな凸形状にあることを突き止め、SiO2膜表面の平坦化を行った(図1)。しかし、平坦化を行っても、特性が劣化し、その原因がAl電極の質量負荷不足による反射係数小であることを解明し、十分な反射係数が得られる銅(Cu)高密度電極を新規に採用した。Cu電極厚みは電極抵抗や電気機械結合係数から最適化した。また、携帯電話に投入される電力に耐えるため、Cu電極にAlの添加とその量の最適化及び製造時の周波数ばらつき低減方法の開発等により、その実用化にも成功した。
 本技術の平坦化SiO2/Cu電極/LiTaO3やLiNbO3圧電基板によって、特性の劣化なくSAWデュプレクサの温度特性を約1/4〜1/8(-10〜-15ppm/℃)(温度安定性では4から8倍)に改善することに成功し、十分な耐電力性能も備えたPCSやWCDMA用SAWデュプレクサを実現できた(図2)。形状も従来の誘電体デュプレクサに比べ約1/40に小型化することができた(図3(b))。現在、世界市場シェアは50%超で、携帯電話の小型化、低消費電力化、多バンド化、普及に大きく貢献している。今後、本開発品は、携帯電話の他のシステムにも適用されますます普及するものと期待される。

図1
図2

図3