市村産業賞

第43回 市村産業賞 貢献賞 -03

地球環境にやさしい原油タンカー用高耐食性鋼板の開発

技術開発者

新日本製鐵株式會社 技術開発本部 鉄鋼研究所
厚板・鋼管・形鋼研究部 主幹研究員 加藤 謙治

技術開発者 日本郵船株式会社 LNGグループ LNG船計画チーム
チーム長  佐藤 秀彦
技術開発者 新日本製鐵株式會社 厚板営業部厚板商品技術グループ
マネジャー 西村 誠二
推  薦 社団法人日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 1990年代後半、原油タンカーのタンク底板に、最大約12mmもの深い原因不明の孔食が数百から数千個も頻発し、原油漏洩による海洋汚染リスクが国際的な課題となった。対症療法的に点検と修繕を繰り返していたが、時間的かつ金銭的に膨大な負荷となっていた。塗装による防食では大量の環境負荷物質が発生する上、継続的な塗装補修を必要とすることから、抜本的な耐食ソリューションが切望されていた。
 受賞者らは、わずか2.5年で12mmにもおよぶ深い孔食が発生するメカニズムが、海水より高塩分濃度かつ強酸性水による腐食であることをつきとめ、評価試験方法の確立と補修不要なレベルまで孔食進展を抑制するための限界腐食速度を明確にすることに成功した。従来の鋼材では十分な耐食性を有することは不可能であったが、ナノオーダーで鋼材表面状態を制御する新技術により、上記のような極めて厳しい環境下でも優れた耐食性を有する鋼材NSGPR-1を世界に先駆けて開発し、原油タンク底板の腐食貫通の危険性を排除するに至った。本開発鋼はステンレスのようにCrやNiといったレアメタルを大量に添加する必要が無く、経済性と施工性にも優れている。
 開発鋼NSGP-1は日本郵船の超大型原油タンカー(図1)に適用され、その効果を実証した(図2)。従来は点検の度に数千箇所もの補修を行わなくてはならなかったが、NSGP-1を使用したタンカーは補修ゼロを実現した。これは世界初の快挙であり、タンカーの高効率運航にも寄与するものである。なお、日本郵船は本実証結果を得て全ての新造原油タンカーへのNSGP-1採用方針を決定し、採用実績は1万トンを超えた。
世界的にエネルギー需要が高まるなか、2013年以降は国際条約で原油タンカーに防食対策を義務付け海上輸送の安全性向上が進められており、地球環境へのより一層の貢献が期待される。

図1
図2