市村産業賞

第46回 市村産業賞 功績賞 -01

高速伝送対応高多層基板材料の開発と実用化

技術開発者 パナソニック株式会社 オートモーティブ&インダストリアルシステムズ社
電子材料事業部 技術開発センター チームリーダー 井上 博晴
技術開発者 同 社 同事業部 電子基材ディビジョン
チームリーダー 古森 清孝
技術開発者 同 社 同事業部 技術開発センター
チームリーダー 藤原 弘明

開発業績の概要

 2000年以降、ブロードバンド回線の普及とインターネットに接続される端末の爆発的増加により、インターネットのデータトラフィック量が激増した。トラフィックの増大に伴いデータセンターでは設置するサーバー数が増加したが、設置スペースの確保や消費電力が新たな問題となった。そこで大容量のデータを高速に処理、伝送が可能な大型サーバーの要望が高まったが、その実現には高速伝送に対応し高多層化が可能な電子回路基板が不可欠であった。電子回路基板を形成する樹脂材料には次の2点の主要特性を兼ね備えていることが要求された。
(1) データ伝送速度の高速化に対応できる低誘電正接、低誘電率
(2) 配線数の増加や高多層化に対応可能な多層成形性、高ガラス転移温度、低熱膨張率
 しかしながら従来の材料では誘電特性と多層化や基板サイズの大型化を同時に満足できなかった。受賞者らは、高速伝送に対応し高多層化が可能な電子回路基板の材料として、(1)誘電特性の優れたポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂を変性することにより、低誘電性を維持したまま熱可塑性樹脂を熱硬化性樹脂に改質し、(2)変性PPE樹脂と低分子量の多官能架橋剤をアロイ化する技術により低誘電特性と多層成形性、高耐熱性を高次元で兼ね備えることに成功した。
 本技術により、従来材料と比較して伝送損失は50%以上低減でき、また、鉛フリーはんだ対応した60層を超える超高多層の電子回路基板の作製が可能となった。本技術を用いた電子回路基板は、爆発的に増大したインターネットのデータを高速に処理する大型超高速サーバーの実用化を可能とし、多くのデータセンターで直面していた設置スペースの確保や消費電力増大の問題を解決し、環境負荷低減にも大きく貢献した。さらにスーパーコンピューターの性能向上にも貢献し、医療やエネルギー等の幅広い分野の発展にも貢献が期待される。 


図1 図2