市村産業賞

第46回 市村産業賞 貢献賞 -01

ドライバーの安心・安全を支える全周囲立体モニタの実用化

技術開発者 株式会社富士通研究所 メディア処理システム研究所 メディアサービス研究部
主任研究員  水谷 政美
技術開発者 同 社 同研究所 同 部
清水 誠也
技術開発者 富士通テン株式会社 AS技術本部 Viewシステム技術室
室 長  亀田 和昌

開発業績の概要

 後方発進時の対人事故軽減やドライバーの駐車サポートを目的として、従来、4台のカメラと画像処理で、車両の近傍を、真上から平面的に映す車載カメラシステムが製品化されていた。しかし、車両周辺の視野が2〜3mと限定的であり、真上から固定された視野の映像であったため、表示している視野の外から自転車や歩行者が接近する場合、発見が遅れて事故に繋がる可能性があった。このため、車両周辺の状況を、より広い視野で死角なく表示できる技術が求められていた。
 受賞者らは、従来製品の技術とは異なり、3次元グラフィックス処理技術を用いる斬新なアプローチによって、4台の車載カメラの映像から、車両周辺だけでなく遠景まで含む広範囲の状況を、360°立体感のある全周囲立体映像として合成し、ドライバーが見たい方向から表示できる全周囲立体モニタ技術(図1)を開発した。また、視覚支援製品として世界で初めて実用化した。本技術は、(1)車載カメラの映像をお椀形状の立体曲面に投影し、死角のない全周囲立体映像を合成できる3次元立体投影技術、(2)全周囲立体映像に投影する複数のカメラ映像の接合品質を向上させる立体型仮想視点投影技術、(3)自由に滑らかに視点を動かし、見たい方向からの全周囲立体映像を、リアルタイムに3次元表示できる自由視点高速描画処理技術、から成る。
 本技術により、従来製品では実現不可能な視野の広さと周囲の物体の視認性向上を実現しており、車両周辺の物体の発見が早くなり、安全性を高めた。また、車両周辺の物体と車両の関係を適切な視点位置から分かりやすく表示できるようになり、独創的で多彩な運転支援画面の生成を可能にした。特に、交差点での巻き込み確認や車線変更時の後方確認など、新たな運転支援画面の生成が可能になった(図2)。これらによりドライバーの安全運転を一層効果的に支援できるようになった。
 本技術は、2010年に国内最大手自動車メーカーのトヨタ自動車鰍ノ採用され、11車種以上に展開中であり、ドライバーの安心・安全の向上を通して社会に貢献している。また、大型バスでの採用実績もあり、旅客や運輸の分野での安心・安全にも貢献している。さらに、消防車、建設機械車両などの特殊車両への適用検討や、住宅・建物の周辺監視システムとしての適用検討も進んでおり、乗用車以外の様々な分野へ、本技術の波及が期待されている。

図1 図2