昨今、電気エネルギーの供給は需要拡大や環境問題を含め深刻化しており、節電対策が重要視され、再生可能エネルギーや省エネ家電などの普及が進んでいる。一方で、発電から消費するまでに数多く行われる電力変換による電力損失(変換ロス)は全発電量の60%とも言われ、その電力損失を低減してエネルギーを有効利用することが注目されている。
パワーデバイスは電力変換や電力制御に利用され、中でもSiC(シリコンカーバイド)「炭化ケイ素」は、次世代の材料として注目されている。このSiCパワーデバイスを電力変換機器へ導入すると電力損失を大幅に削減する効果があり、デバイスが本格的に普及すると、発電所数基分の電力ロス低減効果があると試算されている。しかし、デバイスを開発するにあたり技術的な課題や量産性の問題も多く実用化が非常に困難であった。
こうした中、受賞者らは独自の技術を確立することで、2010年に国内で初めてSiC SBDの量産化に成功。同じ2010年に、これまで困難とされてきたSiC MOSFETの信頼性確保を実現し、世界で初めてSiC MOSFETの量産化に成功。また2012年には、SiC SBDとSiC MOSFETを搭載した“フルSiC”パワーモジュールを世界で初めて量産化した。さらに、独自構造開発により、世界で初めてSiCトレンチMOSの試作に成功し、従来Siデバイスに比べ1桁以上の特性向上を実現して世界最高性能を達成した。
SiCデバイスを使用することにより、電力変換ロスを少なくするだけでなく、機器の小型化・低消費電力化に大きく貢献できる。高耐圧、高耐熱性に優れているため、今まで使用できなかった小さなスペースや過酷な環境下での使用が可能となる。例えば、具体的な応用分野として、EVやHEVなど電気駆動を搭載した自動車や鉄道など高耐圧・大電流分野での応用開発が非常に盛んである。
数年後には主機インバーターにSiCデバイスを使用したHEVやEVが市場に登場すると考えられ、急激な市場拡大が期待されている。その他、産業機器, 家電, 風量発電やメガソーラーなどの大型電力施設などへの応用も進みつつあり、市場拡大が期待されている。
|