市村産業賞

第48回 市村産業賞 貢献賞 -02

高速で安全な無線LAN技術の開発

技術開発者 株式会社 東芝 研究開発統括部 研究開発センター ワイヤレスシステムラボラトリー
主任研究員 青木 亜秀
技術開発者 同社 同統括部 同センター 同ラボラトリー
主任研究員 足立 朋子
技術開発者 同社 セミコンダクター&ストレージ社
半導体研究開発センター ワイヤレスシステム技術開発部
グループ長 行方 稔
推  薦 一般社団法人 電気通信協会

開発業績の概要

 無線LAN は、誰もが手軽に使える無線システムとして、動画等の大容量データを高品質に伝送できる高速化が求められていた。高速化には、複数アンテナを用いて無線フレームを並列伝送するMultiple-Input Multiple-Output (MIMO)方式が候補となったが、当時、MIMO方式の実用化実績がなかった。一方、当時の無線LAN に採用された暗号化方式が解読されるなどセキュリティの脆弱性が問題になり、無線LAN のセキュリティレベルの大幅向上が求められていた。
 そこで、MIMO方式の実用化に必要なプリアンブル信号とパイロット信号を世界に先駆けて開発した。複数アンテナから信号を送信するMIMO方式は、特定エリアに電波が届かないという課題があるため、アンテナ間で相関が低い信号を用いることによってこの課題を解決した。しかし、MIMO方式による高速化が実現したとしても、無線フレーム交換時のオーバヘッドが大きければ、ユーザが体感する通信速度が下がってしまう。そこで、複数の無線フレームおよびそれらの応答を集約して、無線フレームの交換効率を向上させるフレーム集約方式を開発した(図1)。これらの開発により、広いエリアでMIMO方式による無線LANが利用可能になるとともに、従来の4倍以上の高速伝送を実現できた(図2)。一方、セキュリティレベルの大幅向上のために、多様な暗号化方式に対応可能で拡張性に優れる暗号化制御技術を開発した。本技術は情報セキュリティ対策の必須技術として、誰もが安全に使える無線LANの実現に貢献した。
 本開発技術は大容量データを安全に高速に伝送する無線LANの実現に必須な技術である。本技術は、無線LANの世界標準規格である、IEEE 802.11n、IEEE 802.11acおよびセキュリティ規格のIEEE 802.11iに採用され、無線LAN製品・サービスで使用されている。当社は、これらの規格に対応した、無線LANベースバンドLSI、アナログ無線機能を備えた無線LANワンチップLSIおよび無線LAN搭載SDメモリカードを製品化した(図3)。本技術は、オフィスや家庭における無線LAN利用の促進に、さらには公衆無線LANの普及に大きく貢献している。今後は、本技術のIoT分野などへの展開が大いに期待される。


図1