市村産業賞

第49回 市村産業賞 本賞 -01

高屈折率・低複屈折特殊ポリカーボネート樹脂の開発

事業経営者 三菱瓦斯化学株式会社
代表取締役社長 倉井 敏磨
技術開発者 同社 東京研究所 第3グループ
主任研究員 加藤 宣之
技術開発者 同社 機能化学品カンパニー 企画開発部 光学材料グループ
グループマネージャー 西村 喜男
技術開発者 同社 同カンパニー 合成樹脂事業部 機能製品部
担当部長 福島 隆正
推  薦 一般社団法人 日本化学工業協会

開発業績の概要

 携帯電話にカメラが搭載されるようになって以降、そのカメラの高性能化の要求も高まってきた。当初それらカメラのレンズにはガラス材料が用いられてきたが、生産性の面でプラスチック材料への転換が進み、種々のプラスチック材料が使われるようになった。しかし、当初使われていた材料では低屈折率や複屈折性のため、ある程度以上の画質では収差を抑えきれず、高性能なカメラレンズの設計に限界が生じていた。
 受賞者らは、正の複屈折を有するモノマーと負の複屈折を有するモノマーを、その度合いに応じた比率で共重合させることにより複屈折をキャンセル(理論上複屈折=0)させ、低複屈折であり且つ高屈折率の光学材料、特殊ポリカーボネート樹脂「ユピゼータEPシリーズ」の開発に成功した(図1)。例えば、最新グレードであるEP-8000においては、正の複屈折を有する高屈折率モノマーと負の複屈折を有する高屈折率モノマーの組み合わせでnd=1.661という、熱可塑性樹脂材料として過去最高の屈折率を実現し、かつ低複屈折性と良成形性(高流動性)をも兼ね備えた材料となっている。
 本技術を用いて開発されたユピゼータEPシリーズは、屈折率や複屈折などの光学特性と、成形性などの物理特性を高いレベルで担持したことから、カメラレンズとしての光学性能と生産性が非常に優れた光学材料としてレンズ市場から高く評価され、あらゆるスマートフォンのフラグシップモデルに搭載されるカメラ、特に1000万画素以上のカメラの高性能化に寄与している。実際、本市場での高屈折率材料としての世界シェアも70%を優に超えるものとなっている。また、このようなカメラの高性能化の流れはスマートフォンだけでなく、ゲーム機やドローン、アクションレコーダーなどのレジャー機器や、車載カメラや医療機器のセンサーなど多岐に亘って進められており、ユピゼータEPシリーズはそれらのデバイスのレンズ材料としても、更なる拡大が期待される(図2)。

図1


図2