市村産業賞

第49回 市村産業賞 貢献賞 -05

電気機器の省エネに貢献する省資源型Si傾斜磁性材料の開発

技術開発者 JFEスチール株式会社 スチール研究所 電磁鋼板研究部
主任研究員 平谷 多津彦
技術開発者 同社 東日本製鉄所 京浜地区 商品技術部
主任部員 笠井 勝司
技術開発者 同社 スチール研究所 数値解析研究部
主任研究員 浪川 操
推  薦 一般社団法人 日本鉄鋼協会

開発業績の概要

 近年、地球温暖化防止の観点から、電気機器の高効率化ニーズが高まっている。電磁鋼板は、このような電気機器の鉄心材料として広く用いられているが、電気機器の駆動周波数が高くなっていることから、電磁鋼板の高周波損失(鉄損)低減が求められている。高周波用の低鉄損材料としてJFEスチールでは1990年代に6.5%Si鋼(JNEXコア®)の工業化技術を確立し製造を行ってきた。しかし最近では電気機器小型化の観点から、更なる高周波鉄損低減や磁束密度向上の要望が高まっている。高周波鉄損を低減するためには高合金化や板厚低減が効果的であるが、これら手法では磁束密度の低下や、打ち抜き枚数の増加を招くという課題がある。そこで、受賞者らは磁束密度低下やコア加工時の生産性の低下を招かない新規高周波低鉄損低減技術を開発することに挑戦した。
 本開発技術は、6.5%Si鋼板を製造するCVD連続浸珪プロセスを利用し、鋼板の板厚方向のSi濃度分布を制御することにより、少ないSi添加量で高周波鉄損の低減を可能としたものである。開発材(JNHFコア®)は、鋼板表層が高Si濃度、内層が低Si濃度となる板厚方向のSi濃度分布を有しており(図1)、板厚方向のSi分布により鋼板表層部の透磁率を高め、磁束を表層に集中させることにより渦電流損を低減し、高周波鉄損を低減している。
 本技術の発展形態として、低Si濃度の鋼板を拡散の遅いγ相で浸珪処理し、内部を低Si濃度に保ったまま表層のみ高Si濃度とすることにより、より渦電流損を低減し磁束密度を高めた新材料(JNSFコア®)も開発した。開発材の特性を図2に示す。JNHFコア®ではJNEXコア®(6.5%Si鋼)を凌ぐ低鉄損が得られており、JNSFコア®では板厚0.15mmでありながら、板厚0.10mmのJNEXコア®と同等の鉄損かつ高磁束密度が得られている。また開発材では高周波域での鉄損低減のために必要な部分(表層)のみSi量を高めていることから、鋼板全体でのSi使用量を大きく低減することができ、省資源化にも貢献できる。開発材は、主に太陽光発電、エアコン等の高周波リアクトル用鉄心材として、広く使用されている。

図1

図2