市村産業賞

第50回 市村産業賞 功績賞 -03

高機能性逆浸透膜の開発

技術開発者 東レ株式会社 地球環境研究所
所長 木村 将弘
技術開発者 同社 水処理技術部
主任部員 中辻 宏治
技術開発者 同社 メンブレン技術部
主任部員 東 雅樹
推  薦 一般社団法人 日本化学工業協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 世界人口の急増と経済成長を背景に、水不足、水質汚濁といった水問題が地球規模で深刻化しており、全世界で7億以上の人々が安全な水の確保が困難な状況にある。持続可能な水資源を確保しうる技術として、近年、逆浸透膜が注目されているが、世界各地の水質は多様であり、高水質地域での適用は容易であったが、低水質地域での利用は限定されるものであり、多様な水源に適用可能な新技術が切望されていた。

2. 開発技術の概要
 本業績では、性能発現に寄与する逆浸透膜の構造因子に関する基礎研究をベースに、逆浸透膜のポリアミド分離機能層を形成する界面重合場を大幅に見直した。(1)精密界面重合によるひだ構造と細孔構造の制御、(2)表面機能化と高次構造変化抑制を特徴とする技術確立に成功した。これにより得られた高機能性逆浸透膜は、これまで不可能と考えられていた高透水性と高除去性を高次元で両立するとともに耐汚染性、耐薬品性を兼ね備えている。

3.開発技術の特徴と効果
 本業績の高機能性逆浸透膜は、ひだ構造と細孔構造を精密に制御した結果、超薄膜、高表面積化と細孔径制御に成功し、さらには表面吸着水構造と高次構造変化抑制により、高水質を維持しつつ、高い運転安定性を達成した。高機能性逆浸透膜は、世界各地の様々な水源に適用可能であり、アジア、北米を中心に約1.4億人分の生活用水に相当する約3,500万トンの水を供給してきた。また、従来の蒸発水処理法と比較し、累計約800万トンのCO2排出削減にも貢献している。本業績は、逆浸透膜の適用範囲を大きく広げ、水問題解決に大きく寄与するものであり、分離膜の新たな世界を拓く成果である。本成果は、水処理用途だけでなく、分離膜の選択分離性を飛躍的に高めたことから、リチウムなどの有価物回収や膜利用バイオプロセスに寄与することが期待できる。

図1