1.開発の背景
本技術の開発目的は、インフラ構築の基幹材料であるコンクリートを代表とする土木用セメントスラリーのレオロジーを制御することにあった。従来より、分子量の大きなポリマーが用いられており、中でも増粘剤は、粒子径と比重の大きなセメントの分離(沈降)を抑制することが出来、水中の工事でもセメントが飛散せず水質汚濁を防止することが可能である。しかし、高分子量であること、およびセメントへの吸着性が高いが故に、スラリーの流動性低下、硬化時間が大幅に伸びる(工期延長、工費増大)といった問題が生じ、その解決が望まれていた。
2.開発技術の概要
これらの課題に対し、低分子である界面活性剤が形成し、高分子水溶液とは全く異なる特異な粘弾性を発現する「ひも状ミセル」に着目した(図1)。セメントスラリーは分散質のセメントが高体積%で存在するだけでなく、分散媒の水相は高塩濃度(〜440mM)、かつ高pH(12〜13)である。このような過酷な条件下においても高次構造体を形成し、特異的な粘弾性を発現するメカニズム、分子設計、組成を、分子間相互作用、界面科学的な知見に基づき深く追求することで、あらゆる条件(水中、pH、温度、イオン濃度、粒子濃度、振動・静置下、種々の材料)においても使用可能であり、上述の課題を解決するひも状ミセルの形成、制御技術を確立した(図2)。
3.開発技術の特徴と効果
本開発技術は土木建築分野において既に適用されており、これまでに出来なかったことを実現する施工技術の進歩(大幅な工期短縮、水中での工事、狭隘部への確実な施工)に貢献している。また、高度経済成長期に作られた日本を含む先進国のインフラ劣化は激しく、今後、補修・補強の必要性は更に高まるため、本技術を利用した材料の展開が進むと予測される。
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