1.開発の背景
1980年代より、超電導磁石の利用がそれまでの研究用途からシリコン単結晶引上げ装置などの産業用や医療用MRI(Magnetic Resonance Imaging)などへと拡がった。これらの超電導磁石は超電導コイルの冷却に絶対温度4.2K(-269℃)の液体ヘリウムを使用していた。液体ヘリウムの取り扱いは高度な知識と専門技術を要し、液体ヘリウム自体の価格も高価であるため、一般ユーザへの超電導磁石普及を阻害するひとつの要因となっていた。
2.開発技術の概要
本開発では、液体ヘリウムを使用せずに極低温冷凍機のみで冷却する冷凍機冷却超電導磁石を世界で初めて実現、実用化した。従来の超電導磁石に使用されていたGM(Gifford-McMahon)冷凍機は、到達温度が10K程度であった。超電導コイルの冷却が可能な4Kレベルの冷凍を実現するために、磁性体の相転移による比熱のピークを利用し、従来の鉛蓄冷材よりも10K以下で高い比熱を有する磁性蓄冷材を世界で初めて実用化し(図1)、磁性蓄冷材を用いて液体ヘリウム温度で冷凍可能な4K-GM冷凍機開発に成功した。更に、真空中に設置された超電導コイルと4K-GM冷凍機を伝熱板で接続し、伝熱板の材料、寸法、配置の最適化、極低温接触熱抵抗の低減などにより冷凍機と超電導コイルの温度差を0.1K〜0.2K程度に抑えた超電導コイル冷却技術を確立、液体ヘリウムを使用しない冷凍機冷却超電導磁石(図2)を実現した。
3. 開発技術の特徴と効果
開発した冷凍機冷却超電導磁石は、操作の簡便性や安全性に加え、小型・低コストの特徴を有す。実用化に伴い、当初の研究開発用小型磁石から、大型化・高磁界化を進め、現在では産業用(図3)、医療用にまで展開している。更に近年では液体ヘリウムの高騰や入手性への不安から冷凍機冷却の需要が益々高まっており、ヘリウム資源の保護も含めて産業界・学界の発展に貢献している。
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