1.開発の背景
全天球カメラは、360°カメラとも呼ばれる上下左右全方位の写真や動画(全天球画像)が撮れるカメラである。従来、大型で高価な全天球カメラが実用化されていたが、誰もが手軽に全天球画像を楽しめるよう、小型で安価な全天球カメラの開発に着手した。
2.開発技術の概要
価格を抑えるため、レンズやCMOSセンサを少なくできる二眼魚眼レンズ構成を採用し、一般的なストレート光学系ではなく薄型化が可能な屈曲光学系を採用した。また、二つの屈曲光学系の反射面を背中合わせにする構造を発明し、更なる薄型化と二眼間の視差を低減できる独自の二眼屈曲光学系を用いた全天球カメラを開発した。図1に示すように、最初の製品「RICOH THETA」で採用した1/3.2型5MピクセルのCMOSセンサを用いた場合、最外レンズ間の距離は、二眼ストレート光学系の約60mmから17.4mmに低減できている。二眼間の視差を低減することで、繋ぎ目が目立たない良好な全天球画像を得ることができる。全天球画像を得るための処理の流れを図2に示す。
3.開発技術の特徴と効果
世界初のコンシューマー向け全天球カメラ「RICOH THETA」の発売(2013年9月)以来、新しい価値として全天球画像の楽しさを世界に提案してきた。2016年以降は、他社の参入も増え、現在では年間60万台以上(スマートフォン取付型を除く)の全天球カメラが販売されており、「RICOH THETA」はトップシェアブランドとして市場をリードしている。全天球画像はVR/AR向けHMDとの親和性が高いため、VR/AR市場の成長とともに全天球カメラ市場も拡大していくと期待している。また、全天球画像は全体の様子が伝わりやすいため、不動産業界などビジネス分野への応用が活発化している。「RICOH THETA」とともにRICOHが提供する「RICOH360」には2000万枚以上の不動産物件の全天球画像が蓄積されており、賃貸物件紹介などのWEBサイトで活用されている。
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