市村産業賞

第52回 市村産業賞 貢献賞 -03

放射性セシウムと放射性ストロンチウムの同時吸着材の開発と実用化

技術開発者 株式会社 日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ
主管研究員 可児 祐子
技術開発者 日立GEニュークリア・エナジー株式会社 原子力生産本部 燃料サイクル部
主管技師 浅野 隆
技術開発者 株式会社 日立製作所 研究開発グループ エネルギーイノベーションセンタ
研究員 大橋 利正

開発業績の概要

1.開発の背景
 2011年3月11日の東日本大震災を端緒とする東京電力福島第一原子力発電所事故により、放射性物質を含む汚染水が原子炉建屋内に大量に発生した。汚染水に含まれる放射性セシウムと放射性ストロンチウムは、高濃度のため周囲の放射線量の上昇要因となり、また万一の漏水による飛散のリスクもあり早期の除去処理が望まれた。当初は放射性セシウムの除去装置のみが設置され、高濃度の放射性ストロンチウムを含む汚染水はタンク内に貯蔵される状況であった。

2.開発技術の概要
 既存設備を活用してストロンチウムの除去も可能とすることをめざし、セシウムとストロンチウムの同時吸着材を開発した。従来はセシウム用の吸着材として知られていたケイチタン酸塩化合物に対してイオン交換性能を向上する化学処理を施すことで、ストロンチウムの同時吸着を可能とした(図1)。また、吸着材で処理する汚染水の性状(pH)を制御し、セシウムとストロンチウムの吸着性能を長期に維持する技術を開発した。

3.開発技術の特徴と効果
 開発した同時吸着材は、従来知られていた高性能セシウム吸着材や高性能ストロンチウム吸着材と同等の吸着性能を有し(図2)、放射性のセシウムとストロンチウムを選択的に同時に除去することができる。本吸着材は現在、福島第一原子力発電所において汚染水の処理設備や、発電所建屋周辺の地下水を処理する設備で採用されており、リスクの低減や新たな汚染水の発生抑制に貢献している。今後も汚染水や地下水の安定処理、廃炉作業の安全性向上、および周辺地域の復興に貢献していく。


図1

図2