1.開発の背景
ポリグリコール酸(PGA)は、これまで工業規模における高分子量PGAの合成は困難であったことから、高付加価値な医療用途向けの小規模製造に限定されていた。受賞者は、PGAが生分解性の観点の環境適性や生態適合性に加えて、強度(硬度)・ガスバリア性・耐熱性等の特性に極めて優れる(既存樹脂中最高位である)ので、高機能型の生分解性樹脂として新しい市場価値を創出する可能性があると考え、その工業的製造法の開発に着手した。
2.開発技術の概要
GA中間体であるグリコリド(GL)を高純度かつ高収率で製造し、引き続き、得られたGLから高分子量PGAを製造する技術を開発した。その中核は、GLを得る反応に溶媒を用いる方法を考案し、その溶媒として理想的な性質(蒸気圧など)を有する新物質を独自に設計したことである。この溶液法は、従来課題であった副反応と熱分解が抑制され、高純度のGLを高収率で長期間、安定的に得ることができる。次に、GLとPGAの融点の間の温度で重合を開始し、重合後半は固相状態で重合を進行させる方法を開発した。本法は、高分子量PGAが高収率かつ扱いやすい固体状態で得られ量産化に適している(図1)。年産4,000トンのPGA製造プラントを建設し、現在稼働中である。
3.開発技術の特徴と効果
受賞者は、PGAの従来知られていなかった高機能(強度(硬度)・ガスバリア性・耐熱性等)を有することを見出す(図2)と共に、一般樹脂と同様に溶融成形加工可能な技術の導入にも成功した。これら全ての技術確立により、高機能型の生分解性樹脂として、PGAの工業用途という新しい市場を創出し開拓した。特に近年シェールガス掘削用途でPGAの採用が進んでおり、掘削工期の短縮、作業コストダウンおよび環境汚染低減に供する材料として採用されている。現在、クレハ製PGAは工業用途市場で100%シェアを実現しており、需要が拡大している。
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