市村産業賞

第53回 市村産業賞 功績賞 -01

革新技術による微細組織制御ジルコニアの事業化と新展開

技術開発者 東ソー株式会社 無機材料研究所
副理事 上席研究員 松井 光二
技術開発者 同社 高機能材料事業部
執行役員 高機能材料事業部長 大道 信勝
技術開発者 同社
元副理事 大貝 理治
推  薦 公益社団法人 日本セラミック協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 高強度ジルコニアは1980年代に実用化されたが、当時の粉末製造技術は経験を基に構築されていたため品質安定化と量産が困難なレベルであり、また高温大気や熱水中では特性劣化が著しく常温使用に限られたものであった。ジルコニア市場を創造するには、理論に基づく粉末製造技術への進化と本質的な弱点である特性劣化を克服することが必要であった。

2.開発技術の概要
 受賞者らは、従来の高強度ジルコニアに代わる微細組織制御ジルコニア(Microstructure-Controlled Zirconia:MCZ)の工業化技術を確立し、機能を強化した革新的な次世代MCZを開発して普及させることで事業化を成功させた。粒子構造及び化学組成を精密に制御できる粉末製造技術の確立により、品質の安定したMCZ粉末の工業化プロセスを完成させると共に、焼結体の粒界ナノ構造及びナノ化学制御を可能とする微細組織制御技術により、特性劣化を克服した次世代MCZ、更にはセラミックスの概念を覆す、高強度を維持して靭性を大幅に向上させた次世代MCZを開発した。

3.開発技術の特徴と効果
 加水分解法による粉末生成機構の全容を解明し、粒子構造と添加元素分布を均質に制御したMCZ粉末の製造技術を確立した。MCZの焼結機構解明により定説を覆したジルコニア研究史に残る「粒界偏析誘起相変態」を発見し、その知識を基に均質単相焼結体となる粉末製造に成功し、劣化を克服した高耐久性MCZ、続いてジルコニアの概念を覆す世界初の超高耐久性MCZを実現した。更に、添加元素制御で高靭性MCZも創出した(図1・2)。
 本技術は、劣化を飛躍的に改善して高強度材の使用範囲を大きく広げ、光接続部品、粉砕・分散メディア、歯科材等の様々な用途へ利用を進め、ジルコニアの市場形成を大きく進展させた。今後は、高度な信頼性が要求される広範な分野への利用展開が進むと期待される。


図1

図2