1.開発の背景
人工腎臓は、多孔質中空糸膜を介して血液から不要物質を除去する透析治療用の医療機器である。抗血栓性が低い材料では、血液凝固や炎症を引き起こす。人工腎臓では、膜性能の高いポリスルホン系素材が主流であり、親水性のポリビニルピロリドン(PVP)をブレンドすることで抗血栓性を付与しているが、さらなる向上が望まれていた。
2.開発技術の概要
我々は、ポリマーと相互作用する水(吸着水)の運動性に着目し、タンパク質吸着水とポリマー吸着水の運動性が同じであれば、両者が接触しても、相互作用が起こらず、付着しないという独自コンセプトを想到した。実際に、PVPよりも吸着水の運動性を高めた新規抗血栓性ポリマー(NVポリマー)は、血小板の付着を大幅に抑制した(図1)。該ポリマーをナノメートルの厚みで人工腎臓に内蔵された中空糸膜内表面改質する技術を確立し、慢性腎不全用および急性腎不全用の人工腎臓を実用化した。PVP以外の抗血栓性ポリマーを用いたポリスルホン系人工腎臓は世界初であり、現在でも類例がない。
3.開発技術の特徴と効果
NVポリマーを適用した人工腎臓は、タンパク質や血小板などの血液成分の付着や白血球の炎症を抑制し、膜の目詰まりも少ないという特徴を有している。実際に、臨床においても、透析中の血小板数の変動が小さく、治療中の血圧低下が抑制されることや、膜寿命の延長などが報告されており、患者の生活の質向上に貢献している。
本技術は様々な素材で高い抗血栓性を発現させることができるため(図2)、各種医療機器や高感度検査機器などに展開可能であり、今後、益々、重要性が高まると期待している。
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