1.開発の背景
自動車の衝突試験で用いるダミー人形は、再現性や耐久性の観点から堅牢な構造を持つ。一方、人体は脆弱であり1度の交通事故でも骨折などの傷害を負うことがある。このような人体の脆弱性を考慮して自動車の安全性を向上すべく、バーチャル人体モデルを開発した。衝突事故は様々な状況で発生し、巻き込まれる人もまた様々である。多様な事故実態を再現すべく、様々な年齢や体格を模擬したモデルを展開した。
2.開発技術の概要
CTスキャン画像をもとに人体構造を精密に模擬した有限要素モデルを作成、骨や内臓など組織ごとに力学特性を付与することで、交通事故における人体傷害を解析可能なバーチャル人体モデルTHUMSを開発、様々な年齢や体格を模擬した複数のモデルを展開した(図1)。専門の研究機関で分析された人体挙動や傷害発生状況を精度よく再現することを確認した。これにより、ダミー人形を用いた衝突試験だけでは分からなかった傷害発生メカニズムを解析、シートベルトやエアバッグなどの研究開発に活用できるようになった。
3.開発技術の特徴と効果
THUMSを用いて追突事故における頸部むち打ち症のメカニズムを分析した。頭と胴体が前後にズレることで頚部に負荷が生じることが解った。このズレを抑制するWILコンセプトシートを開発した(図2)。このシートを搭載した車両では、頚部むち打ち症の発生率が低いことが保険会社により確認された。THUMSは世界中の自動車エンジニアや研究者に使われており、子供から高齢者まで様々な人に優しい安全技術の研究開発に役立っている。2021年、トヨタはTHUMSを無償公開した。より幅広く安全研究に活用されるとともに、将来の安全アセスメントでの利用も期待されている。
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