1.開発の背景
東海道新幹線は徐々に最高速度を引き上げ、現在は285km/h に達している。新幹線の速度向上に際し、安全性を維持するためにはブレーキ性能の向上が必須となる。特に地震の多い日本では、非常時に、より短い距離で停止したいとのニーズが高く、ブレーキ装置(ディスク、パッド、キャリパ)に求められる性能は日増しに高くなっている。
東海道新幹線開業以来用いられてきたブレーキ(リジッド)パッドは、摩擦材を一体で押し当てる構造となっているため、高速から急制動する際は、熱変形するディスクと部分的に接触し局所的な高温部(ヒートスポット)を生じ、結果としてブレーキ力の低下等、様々な問題を誘発している。したがって、高速化とブレーキ距離短縮を両立するためには、ヒートスポットの発生を防止可能な新型パッドの開発が喫緊の課題となっていた。
2.開発技術の概要
熱変形したブレーキディスクと摺動するブレーキパッドの摩擦材が局部接触することなく、熱変形に追従するように稼働させる目的で、皿ばねを搭載した新型ブレーキパッドを考案・設計した。摩擦材を皿ばねを介しリベットで結合するシンプルな構造を採用することで、スペース上の制約も克服した。皿ばねのばね定数と摩擦材配置は有限要素法(FEM)解析により、均一な接触状態となるよう設計されている。
3.開発技術の特徴と効果
実体ブレーキ試験にて性能確認を実施した結果、新型ではヒートスポットの発生が防止できており、ディスク表面温度は新型とリジッドを比較すると100℃以上温度低減された。その他あらゆる指標がリジッドより良好な結果となり、N700Aへの量産採用と開発目標としていた地震時のブレーキ距離5%短縮を達成することができた。現在では東海道新幹線全ての車両が新型ブレーキパッド搭載車両となっており、本開発は高速化(利便性)と停止距離削減(安全性)を両立させた輸送手段提供に貢献した。
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