1.開発の背景
モノやサービスを含むあらゆる分野がデジタル化する中で、これを支える半導体は、高集積化と高機能化に必要な回路の微細化が脈々と続いている。近年の社会の進歩は、半導体の微細化が支えていると言っても過言ではない。この半導体の製造プロセスでは、写真製版を応用したリソグラフィーと呼ばれる微細加工技術が用いられる。特に写真のネガに相当するフォトマスクへの微細化要求は、近年非常に厳しいものとなっている。
2.開発技術の概要
今回開発した電子線リソグラフィー用帯電防止技術は、回路パターンの位置ずれによる解像度や歩留まりの低下など、半導体微細化に伴う製造プロセス上の重要課題を解決するものである。回路パターンの位置ずれは、フォトマスク等の微細パターン形成に必要な電子線リソグラフィー工程で、絶縁物であるレジストが帯電し電子線の軌道が曲げられることによって生じる。レジスト上層に導電性を有する層(導電層)を形成し、レジスト上の帯電を無くすことで、この課題を解決することができる。
3.開発技術の特徴と効果
この導電層には、十分な導電性とともにレジストプロセスとのマッチング(水溶性、安定性、レジスト特性への影響等)が要求されるが、従来技術では導電性と水溶性の両立は困難であった。しかし、三菱ケミカルが独自の重合法を見出し開発したポリアニリンスルホン酸(PAS、図1)は導電性と水溶性を両立した画期的な導電性高分子であった。このPASをベースにレジスト上層に導電層を形成する帯電防止剤(製品名:aquaSAVE™)を製品化した。このaquaSAVE™は、開発初期より富士通と共にプロセスに合わせた材料組成の最適化を行いその効果を確認した(図2)。そのノウハウを基にHOYAとともに開発した最新版は、従来プロセスを変更することなくレジストダメージレスを実現した。本技術は、プロセッサや通信向け半導体などの製造プロセス、EUV用を含む最先端のフォトマスク製造プロセス等に適用され、今や先端半導体製造に欠かせないものであり、世界中の半導体とデジタル社会の進展を支えている。
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