1.開発の背景
世界的な水不足・水質悪化を背景に、工場等で発生する産業排水の回収・再利用のニーズが高まっている。特に、水処理の難易度が高い高濁度排水を効率的に回収する技術が望まれていた。高濁度排水回収には、大量の水を短時間に処理する技術(高透水性)と高濁度時でも安定運転できる技術(高濁度対応)が必要である。クラレは、これらを両立する高透水性・高濁度対応の水処理用中空糸膜モジュールを開発し、高濁度水の効率的回収・再利用を可能とすることに取り組んだ。
2.開発技術の概要
高透水性・高濁度対応膜モジュール(図1)は、当社の従来品と比べ透水性能(水の透過しやすさ)が約5倍、濁度耐性(汚れに対する耐性)が約10倍向上した。高透水性は、「NIPS-TIPS併用法」というクラレが独自開発した新たな多孔質中空糸膜の製造技術で実現した。高濁度耐性は、中空糸膜1本1本が自由に動く「片端フリー構造」と、濁度成分の蓄積箇所を集中的に洗浄できる「導水管構造」という独自のモジュール構造により実現した。
3.開発技術の特徴と効果
高濁度排水の排水回収プロセスは、既存技術では、例えば「1.凝集⇒2.フロック形成⇒3.沈殿⇒4.砂ろ過⇒5.活性炭⇒6.RO(Reverse Osmosis)膜」という6段階の工程が必要であったため、経済合理性がなく処分されるケースがほとんどであった。しかし、クラレの開発した高透水性・高濁度対応膜モジュールがキー技術となり、「1.凝集⇒2.高透水性・高濁度対応膜モジュール⇒3.RO膜」という3段階の新プロセスを実現し、経済合理性がある効率的な水回収が可能となった(図2)。本技術は、効率的な高濁度水の処理技術として、産業水の安定確保、水回収率向上など、産業全般の水資源の有効活用に貢献している。
|