市村産業賞

第55回 市村産業賞 功績賞 -03

水素社会実現に貢献する燃料電池向け表面処理チタン材の開発

技術開発者 株式会社 神戸製鋼所 技術開発本部 材料研究所
研究首席 佐藤 俊樹
技術開発者 同社 素形材事業部門 チタンユニット チタン工場 製造部
室長 淺 勇輔
技術開発者 トヨタ自動車株式会社 ZEV(FC事業)商用ZEV製品開発部
主幹 萱嶋 浩一
推  薦 一般社団法人 日本チタン協会

開発業績の概要

1.開発の背景
 カーボンニュートラルに向けた水素社会実現のために、燃料電池自動車(FCEV)の普及拡大が求められている。そのためには、基幹モジュールの燃料電池を大量供給可能にする必要がある。セパレータは燃料電池の主要部品であり、燃料電池1台に数百枚ものセパレータが搭載されるが、既存セパレータは生産性に課題があり、燃料電池の大量供給の妨げとなっていた。

2.開発技術の概要
 高耐食・高密着の酸化チタン中に導電性カーボン粒子を分散させた、ナノメートルオーダーの膜厚で緻密な皮膜”Nano-Carbon composite coat(略称NC)”(図1)を開発した。さらに、表面処理生産性を高めるコイル状チタン材への連続表面処理技術も開発した。
 NC処理したチタン材(略称NCチタン材)は、厳しいプレス成形でも皮膜は剥離せず、燃料電池内部の酸性腐食環境でも表面導電性を維持する。

3.開発技術の特徴と効果
 既存セパレータは、皮膜剥離の問題から、プレス成形後に、切板状態のセパレータを1枚ずつ表面処理する必要があり生産性を阻害していた。本技術により(図2)、表面処理を高速・高効率化し、生産律速のプレス成形後の表面処理工程を省略できるプレコート型セパレータの実用化を、世界で初めて実現した。その結果、セパレータの生産性が大幅に改善され、燃料電池の大量供給が可能となった。
 NCチタン材は2020年に量産を開始し、同年12月にトヨタ自動車株式会社より発売のFCEV“MIRAI”に独占的に供給されている。今後、乗用車に限らず、商用車や鉄道、船舶等へ適用を拡大し、水素社会実現への貢献が期待される。


図1
図2