1.開発の背景
重要な社会インフラである橋梁の多くは、高度経済成長期に建設され、老朽化が進行している。老朽化した橋梁の補修・維持管理費用の縮減や少子高齢化に伴う労働人口の減少に対応可能な橋梁のミニマムメンテナンス化・長寿命化技術の構築が課題となっている。鋼橋の多くは塗装防食が施されているが、塗装の傷部や部材鋭角部などの塗装欠陥部において鋼材の腐食が集中し、進展する。塗装の弱点である塗装欠陥部の腐食抑制は困難であり、塗装欠陥部に特化した新たな耐食鋼の開発に取り組んだ。
2.開発技術の概要
大気環境の塗装欠陥部の腐食は薄い水膜中で進む。独自に考案した腐食計測手法により、大気環境の塗装欠陥部の腐食は、水溶液が乾燥する過程で、溶け出した鉄イオンと塩化物の化学反応により酸性化した濃厚な塩化物を含む水溶液中で進行することをはじめて解明した。本知見を基に、酸性溶液で鉄が溶け出る反応を遅らせる元素を鋭意探索し、鋼材に微量のSnを添加することで、溶け出したSnイオンにより鉄の溶解反応を抑制し、塗装欠陥部の塗膜剥離面積を従来鋼に対して半減させる塗装周期延長鋼を開発した。
3.開発技術の特徴と効果
塗装周期延長鋼は、従来鋼に比べて塗装欠陥部の塗膜剥離面積を半減し、橋梁の塗装塗り替え期間を約2倍に延長する。従来鋼であれば100年間で3回必要とする塗り替えを1回へ削減でき、橋梁のライフサイクルコストを大幅に縮減可能である。塗替え回数の削減によりVOC排出抑制し、地球環境負荷の軽減可能である。塩害の厳しい沿岸部だけでなく、融雪塩散布する積雪地域などを中心に国内広く、50橋超に採用され、また港湾クレーン等にも展開されている。塗装周期延長鋼は、今後も国土強靭化や東日本大震災の復興に貢献し、持続的な社会の実現と安心安全な社会構築に大きく貢献する。
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