1.開発の背景
現在、産業用ロボット(以下、ロボット)は全世界の生産現場に導入されている。ロボットを稼働させるには、事前に動作を覚え込ませる教示作業が必要であるが、その教示作業は作業者がロボットに接近する危険な作業であり、教示中の誤操作によるロボットの暴走で瞬間的に事故に至る。特に1980年代、90年代は教示作業中の怪我や死亡事故が多く発生したため、人の反射行動で安全を確保する新たな安全技術の必要性が高まっていた。
2.開発技術の概要
ロボットに接近する作業者の安全を確保するために開発したのが、イネーブルスイッチである。作業者が教示装置に搭載したイネーブルスイッチを握っている時にのみロボットの教示作業を可能とすることで、作業者がパニック状態に陥った場合に、咄嗟に手を放す、もしくは強く握るという、どちらの反射行動を取ってもロボットが停止し、作業者の安全を確保することができる(図1)。
3.開発技術の特徴と効果
ロボットの教示装置は多様化しており、使い方に応じた最適設計とするため、複数のイネーブルスイッチ製品を開発した(図2)。長時間の教示作業を考慮して軽い操作力で作業者の負担を軽減すると共に、手を放した時だけでなく、握りこんだ際にも確実にロボットを停止できる操作力が特徴で、作業者の安全確保だけでなく安心して作業に集中できる効果がある。関連するIECやISO国際規格づくりをIDECが主導し、ロボット教示に必須の安全機器となった。1997年の発売以降の全世界のロボットメーカ/ユーザへの累計出荷台数は630万台を超え、4半世紀に亘り、自動車製造業を中心に、ロボット作業者6000万人の安全・安心・ウェルビーイング実現に貢献している。
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